2010/12/17 @松山大学体育館
聞き手:JCDN R.Mizuno
四国愛媛出身である矢内原さん。ニブロールで一杯一杯のスケジュールの合間をぬって、メンバーに内緒で、「どうしても四国で作品がつくりたくて応募した」と後からお聞きした。9月ワークショップ形式のオーディションを松山で行い、出演者を9名に決定。もともとダンスが盛んな松山の活動は、愛媛大学、松山大学のダンス部、ダンススタジオ・モガ、yummydance など、その活動は全国的に周知されている。外からの振付家・作家が松山で、ダンスインレジデンスして作品制作する今回の試みが、松山のダンス界に旋風となることを期待している。新年8日から作品制作を再スタートする。
出演者選考:2010年9月25日
作品制作@松山 2010年12月16日―23日/2011年1月8日―13日
公演:2011年1月14日 愛媛ひめぎんホール
— 今回このテーマで作品をつくろうと思ったのは?
そうですね。タイトルは「お部屋」っていうんですけど、なんでこのタイトルになったかっていうと、部屋っていうのは個人そのものの単位だと思うんですけど、その単位を表現することができれば、世界から見て四国っていう部屋の単位に似ているところ、その小さな中にすべてがある、それをやれたらと思いまして。限りなく小さいものと限りなく大きいものは、いつかどこかで出会うけど、その限りなく大きい方をやるのではなくて、かぎりなく小さい方をやっていって、いつかその大きなものとぶつかっていくというコンセプトを目指して、部屋という最小限の単位というものをやる。それを四国でやることは、すごく意味のあることじゃないかなと思って、このタイトルを選びました。
— 部屋というプライベート空間を題材に、パブリックな場で発表するということは、間逆なことになりますが、その狙いはどのあたりになるのでしょう?
パブリックスペースっていうものは、こう、皆で共有しているって認識していると思うんです。でも、例えばパブリックスペースの中でも、非常にプライベートな空間っていうのは存在して、例えば電車に座ったときに周りの人が見えていなくて、本を開けた途端にそこはやっぱりプライベートとか、あとは音楽を聴いたりする空間でもある。パブリックなスペースの中にいて、音楽を聴くことによって、プライベートな空間が存在する、ていうような事が年々やっぱり強くなってきていて、でもそれがひどくなっていくと、逆に世界と繋がる。
— なるほど。今回の作品の方向に置き換えると、どう公、社会と繋がることになるのでしょうか?
例えばよく日本で言うオタクというものとかは、フィギアっていうものをどんどんどんどんつき詰めていくと、そのフィギア自体がいつしかこうバンって、世界に出るようなものになったり、「え、そんなの持ってるの」って、ネットでわーっと世界中に広まったりして、自分が外に出て行こうとしなくても、内側に内側にこもろうとすると、急にトンネルが開くっていう様な現象が、今実際に社会の中で起こっていて、そういうこと考えていくと、もちろんパブリックスペースの中にプライベート空間っていうもの自体も共有できると思いますし、プライベートの空間の中に、例えばテレビとか、インターネットとか、異様に簡単にパブリックなスペースが入ってくる時代がここ10年間の間にやってきて、それを両者で見たときに、パブリックを意識しないでプライベートな空間だけをやっていて、お客さんがパブリックを意識するいうことができるんじゃないかと思ったので、パブリックとかけ離れたプライベートなことっていうもの自体が、実はパブリックに繋がっていくと思ったので、プライベートな部屋という空間を選びました。
— 集団でつくるニブロールでの作品制作と、個人での制作はどう分けて活動しているのですか?
個人でのダンス作品制作は何個かありますが、普段はニブロールでの発表が多いので、演劇作品は演出と意味においてはいつも1人ですけど、でもそれは振付という意味においては1人ですかねダンサー達が一緒にいてくれますけど。個人の表現っていうのはここ数年でやることが何回かあって、この前に一本やっていた『桜の園』っていうのも、私のソロプロジェクトなんですけど。ニブロールでやる時は、やっぱりディレクター集団で、全員がテーマを共有して、そのものに向かっていくんですけど、個人でやる場合は、まあ一番初めに「部屋をやります」とかっていうのを決めてから、それに向かってみんながやる。音楽だったらこの曲がいいですとか、映像だったらこうしてください、というのとか、私がイメージしている通りに映像とか音楽っていうものをディレクターの人が創ってくるけど、ニブロールの場合は、なかなかそういかないこともあって。例えば映像の人がこれをやりたい、って言ったらそれに合わせてダンスを創るし、音楽の人がこの曲でやっぱりいきたい、って言ったら、そのまんまになることもあるんですけど。個人の場合は、基本的には私がディレクターになるので、そのダンス作品ならダンス作品に向かって皆が動くという。
— 矢内原さんは最近では演劇作品をつくる機会が多いですね。ダンス作品と演劇作品をどう分けてつくっているのですか?
演劇の場合は戯曲からとりかかりますので、まず1人で書くので、それが決定している段階で、次に進むので役名が全員についている状態なんです。役のない人を入れるということはないです。ダンスの場合は、瞬間的に1日1日変わっていくので、あまりシナリオを作っても役に立たない。私の場合は何分かおきに、どんどん構成が変わっていって、例えば脚本みたいなテキストみたいなものを用意しても、全然その通りにいかないんです。ダンサーがその場で覚えていかないと、「あれ?テキストと違う」って言うことになるので、結局混乱を招くことになります。なので、ダンスの場合は、シナリオはないです。演劇の場合は、セリフをみんなで共有しないと稽古にならないですから、もちろんセリフのない演劇もあるのですが私の場合は言葉がダンスでいうモチーフを覚えた状態で始めるので、台詞が変わるとしても憶えていないと変えられないので。
— となるとダンス作品の場合は、リハーサルを行なうごとに構成や振付が変化するということになりますね?
はい。はい。はいそうです。ああ、変わりますね。だから、いや、演劇の場合は言葉が中心で、もう絶対的にこの言葉をしゃべってもらいたいと思って、役を決めてから取りかかるんですね。ダンスの場合はもう少しラフで、多分その人によって変わるんですけど、その人ができない、っていうことがない人を基本選ぶ。人によってもちろんこのフレーズの覚えが遅いとか、これができないということがあるんですけど、その幅がなるべく少ないダンサーを選ぶんです。で、そうすると、そういうことが起こらないんです。これができないとか、あ、ここはやっぱり変えなきゃな、みたいなことが。でもそうではなくて、そこに達してないダンサーと仕事をする時っていうのは、もっと頻繁に変わってきます。
さらに、ニブロールでやる場合は、映像とか音楽が入ってくるので、そこでまたチェンジしていかなければいけないことになります。
— なるほど。そうなると、矢内原さんのダンス作品制作過程というのは、ダンサーから出てくるイメージ如何で、大きく作品全体の方向を変えることになると。言い換えれば、作品のテーマや構成はそれほど大事ではないということになりますか?
いえいえ大事なんです。それが大事だと思ってる。例えば演劇とかは言葉の構築なので、それを変えることはできないんですね。でもダンスの場合は「イメージ」だから。そのイメージをやろうとするという事は、変えていくことが可能。それが面白い。ダンサーのイメージも私のイメージも、こう合致したところ、意見が同じだったりするところを、とにかく拾い上げて作品にしていきます。
— 今ということは、矢内原さんがダンス作品をつくる場合、その提示したい世界のイメージが主体となっていく、ということですね?
ええ、イメージが、そうです。多いですね。
— そうすると、演劇かダンスかどちらでつくるか、というのはどうやって決めているのですか?
それは、自分が決めることはあまり少ないですね。「今回はダンスでやってください。」とか、「じゃあ、今回は演劇やってください。」って言われることが多いので。前やったチェーホフの『桜の園』とかは「演劇でやってください。」って言われたから演劇でやったんですが、「ダンスでやってください。」って言われていたら、ダンスでやったんですけど。ただ、そうなるとつくり方が全然違ってくる。で、このテーマだからダンスでやろうとか、このテーマだから演劇やろうっていうのは、私の中ではそんなにないですね。あまり自分で選んでやっていないですね。でも戯曲を書くときはテーマがあるんですけど、そのテーマは自分で決めるんですけど、このテーマだから絶対演劇で出来ないとか、絶対ダンスで、ということはないです。
— さて、松山での作品制作・ダンスインレジデンスが開始されましたが、今回の「部屋」をテーマとした作品ですが、冒頭でのお話しにあったように、パブリックな劇場という空間で、プライベートスペース「部屋」を表現するという試みはいかがですか?
今日で2日目のリハーサルですが、頭で考えていたよりも難しいです。人数がやっぱり9人で、その9人をずっと舞台に上げていると、やはりたとえ30分でも作品として何か、同じテンポに見えたりとか、同じ感じがずっと続くので、それをどうやって部屋にいるという感覚に近づけていくかっていうことにぶつかってます。
— 出演者決定後から、リハーサル開始まで3ヶ月ほど空きましたが、その間、出演者に宿題を出して、自分で撮影したダンスを映像としてyoutubuにあげて、皆で見合などの遠距離の作品制作を進められたようですね。まずは、どんな宿題を出したのですか?
部屋です。はい。部屋の中に居て、部屋の中で感じるものを踊りにして、って言って、それで皆がそれぞれに「これをやりたい」ってテーマを送ってもらったので、じゃあ一人一人部屋の中での寝る時なのかとか、テレビを見ているとか、自分が一番好きな行為をダンスにしていく。正座なのかとか。
— 今回、松山の出演者の感触は?
レベルは高いと思います。う少し鍛えると全然東京のダンサーに負けないぐらいのレベルのダンサーも沢山いると。
— 作品を通して、ご自身が一番伝えたいことをおしえてください。
小さな部屋にいるということ自体が、どういうことなのか?部屋というプライベートの空間をみつめなおすことによって、日本という国をどういうふうに考えているのか、ということが、四国というところはどういうふうに考えているのかということが、伝えられるといいなって。
で、ある人には部屋の中でずっとグルグルしているだけのように見えるかもしれないですし、それがある人には構築に、なんかどこかに抜け出すための構築に見えるかもしれないし、それが生きている時間、というものになるのかもしれない。それが部屋の中で、ほとんどの事が部屋の中で行われているという事が、一番簡単なことですけど伝わればいいなと思います。
— 矢内原さんが愛媛の出身であることで、四国にむかって特に意識することはありますか?
四国から出ない人が多いんですよね。私は大学で出てしまいましたけど、私の中学、高校の時の友達だったりとかはほとんど四国に居るんです。それだけやっぱり住みやすいところなんですね、よい所だけになかなか外に出ないんで、ちょっとだけ外を見てもらいたいです。他の人も、他の地域の人も受け入れて。どこもそうだと思うんですけど都市も地方を受け入れたら良いと思います。特に四国は住み易くて居心地がいいんで、厳しいところに行ったりすると人は打たれ弱いんですね。だから、今回の機会が、なんかあのうまく外に繋がって、外で公演してもどってくるばいいなと思います。
— 四国に住むダンスをやっている人には?
若い人には特に外も内もみてほしいと思います。そうなるとやっぱり全然違うような気がするんです。外から教えられることも多分沢山あると思います。感じ方とかも、もっともっといろんなところで、いろんな人が踊っていて、いろんな人がダンスに関わる状況が、やっぱり京都とか東京に比べるとどうしても少ないですからね、外に行ける機会は外にでて、その上でまた四国でもやるというのが一番だと思います。偉そうですいません。
— 今後の四国については?
そうですね。この後中四国地区初の、本格的な演劇専攻コースが誕生したんですね、四国学院大学というところで、非常勤で入ることになりました。芸術大学とかその舞踊学科に行こうと思ったら、大阪か東京に出なきゃいけない状態だったので。東京とか大阪にも負けないような講師陣を四国に沢山呼んでいるので、四国からどんどん広まっていけばいいなと期待しています。
— ありがとうございました。この後、12月26日までリハーサルを続け、年明け1月8日から再会で、14日公演。短期間の作品制作ですがよろしくお願します。
END