「渚の風<聞こえる編>」出演のミカヅキ会議(前野隆司、武藤浩史、横山千晶)
インタビュー
秋の鳥取レジデンスの際に黒沢美香さんに行ったインタビューで、“ミカヅキ会議の皆は、ダンサーより上手く踊る意気込みがある”とお聞きし、次回のインタビューは、ミカヅキ会議のお三方にそのあたり直接聞いてみたいと思っていました。鳥取で初演を終えた直後に、前野隆司さん、武藤浩史さん、横山千晶さんに、お話しを伺いました。インタヴュー中に小学校から中学まで鳥取で過ごされた前野さんに、母校の教頭先生が訪ねて来られるという嬉しいハプニングもありましたが、黒沢さんとの出会い、言語と身体、ご自身の大学での研究との接点など話はつきませんでした。
(福岡公演 photo:泉山朗土)
2014年1月26日 鳥の劇場
聞き手:水野立子/テープ起こし:渋谷陽菜/編集:北本麻理・水野立子
きっかけの1月10日
― 約半年の稽古期間を終えての初演、無事終わりましたね、お疲れ様でした。初演まで長かったですか?
武藤 でもね、本格的にやったのは11月の鳥の劇場でのレジデンスからですよ。
― エンジンがかかりだしたのはそうかもしれないですね、レジデンスは缶詰状態ですからね。12月の森下スタジオでのリハーサルを拝見したときは、これはどうなるんだろうーと思ってたんですが(笑)今日の公演では、一人ずつの身体のテンションというか強度が、急激に上がってすごいなーって思いましたね。さすが合わせてきましたね。
武藤 なんかね、ようやく形がついたって言うか。
前野 ずぅーっとこう、伸びてきた感じはしますね。
武藤 11月は始まりで、なんかまだメロメロだった感じですよね。
前野 うん。美香さんもお正月休みを挟んで、1月の初稽古の時は危機感を抱いていた。
― そうなんですか?
武藤 ちょっと稽古期間があくので、またテンションが下がるという危機感を抱いていたら意外に良かった。恐らく各自がお正月のうちに練習していたんだろうと。
前野 そう、したした。
―自主錬ですか?
横山 個人練習。
前野 それまでは段取りを覚えたり、絡みを考えることに精一杯だったので、見せることまで頭が回っていなかったんですよ。
― 見せるという意識の身体になったんですね。
前野 そう。伸びたと言うよりも、外にはみえてなかったものが見えてきたのだと思います。外に出すエネルギーは1月10日からアップしました。これはやっぱり美香さんの時間配分が上手いのだと思う。そこまでは厳しかったけど、最後の方は褒めてくれた。「ココが凄い。凄い良かったー!」とか言って、だからそれで気持 ちがそれぞれなりにあがったと思う。
― その気になって見せる気になっていった。
前野 そういう日なんですよね、1月10日。
武藤 確かに段取りが身体に入ると、自分の動きも出来るって言うか、その段階になるとやっぱり一段上がる。
前野 12月までは結構怒られました。「前回作った振りを忘れるなんて、ダンサーだったらありえない!」とか。
舞台に立つ覚悟
― 皆さんのご職業というのはかなりお忙しいでしょ?
前野 おかげさまで、忙しいですね。
― それなのに、この茨の道っていうか、趣味程度ではすまない。ツアーもあるし、覚悟がないとやれないと思うのですが、この「踊2」に応募するよって言われた時、やろうかどうしようかって迷いはなかったのですか?
前野 もともと秘密結社のようにダンスはしていました。そして、どこかで発表しようといって探していたら、美香さんが「踊りに行くぜ!」を見つけてきて、「これだー!」って。
横山 美香さんに言われたんですよ。「もう親が死んでもダンサーは公演のときはやらなきゃいけないから、その時は覚悟してくださいって。」
前野 そうそう。
― そんなことまで言われたんだ。すごいなー!
前野 それはそうでしょ、親が死んでもやらなきゃ。プロなんで。卒業式はしょうがないけれども。(前野さんは、京都公演の前日リハ日に大学の卒業式があります)
― そういう風に言われたら、はい!ってすぐ納得したんですか?おそらく、いまのコンテンポラリーダンスの人で、親の死に目に会わないで舞台に立つ、という覚悟が皆にあるかと言われると・・・・。
武藤 美香さんもどの程度本気で言っているか分からないよね。
― 一般のお仕事だったら、普通「はい」って了承できないでしょ。
武藤 でも私たちにとって黒沢美香は師匠なので、この人の言う事は絶対に聞かないと、と思います。
― なるほど。
横山 それくらいの覚悟で行かなきゃ、と思いました。
― そうなんですか。それはもしかしたら今日の話の中で一番すごい話かもしれない(笑)
横山 あのときは美香さん結構本気だったと思う。私たちも応募のときはかなりぬるい感じでいたから、選ばれたたときすごく焦ったんですよね。しかも今までは、この日は予定が入っているから駄目です、みたいな感じできていたので、美香さんに釘を刺されたって言う感覚はありました。
やっぱり美香さんはそれくらいの覚悟をなさって来たんじゃないですか。だから、そういわれても当然だと思った。
(ダンス・イン・レジデンス鳥の劇場)
武藤 応募する時は、やりましょやりましょ、ってもっといいこと言っていたんだよ。選出された後、マジになった。
横山 選ばれると思わなかったのと、公演も限られた日数でしか出来ない。レジデンスはどうひっくり返ってもピンポイントで1週間しか取れない。普通はこんなの有り得ないので、多分ダメでしょうと。
― ミカヅキ会議の場合は美香さんの稽古場もあるし、自分たちで密な稽古ができていると想像していました。合宿のような感じなんだろう、と思ってたんですが。違ったようですね。
横山 いや、レジデンスはやってよかったです。
― 「踊2」のこのプロジェクトとしては、ダンス・イン・レジデンスは是非やってほしいと思うものです。なにしろ、朝から晩までずっと作品に向き合える贅沢な時間に没頭できるというものですから。
ミカヅキ会議結成について
武藤 2011年だね。
横山 2011年。ちょうど3月3日に結成して、その後に震災が起きたんですね。美香さんが、ご自分のお身体のこともあるんだろうけど、「これから先どこで何があるか分からないから、すぐにミカヅキというものを出していこうと思った。」と仰ってました。
まずその2か月後の5月11日に、慶應大学で美香さんのダンサー達の公演をやったんです。いろいろなイベントが自粛される中、美香さんはどんな事があってもこの公演はやると決めた。こういう時だからこそ絶対にやる。そこで私たち、本当に短い時間だけど踊ることになりました。あっという間に公演に(作品として)持っていくって凄い事じゃないですか。実は美香さん、このミカヅキの結成をその一年くらい前からずっと考えていたって仰っていたので、やはり思い入れはあったんだな。そういった意味での「重さ」は、色んな段階を経て私たちも感じられてきたと思います。
(鳥取公演 photo:中島伸二)
武藤 慶應で、我々が文部科学省の教育プロジェクトの予算を取ってたんですね。それを使って新入生歓迎行事として5月11日に公演をすると。そこで黒沢美香&ダンサーズも出ると。その一部でミカヅキ会議も出ることになった。それで横山が横浜で「カドベヤ」というコミュニティースペースをやっていて、ここで震災の被災者の方々がいらっしゃったので、そういう人に縁もあったって言う事で震災関連イベントとしてやった。それが最初の小さなデビュー。それで、その次に、翌年2012年にd-倉庫でやりました。
―次が「踊2」だったわけですね。大学教授というハードな仕事を抱えながらも、ミカヅキ会議の活動を止められないでいるっていう、その一番の理由をお聞きしたいですね。
武藤 私はとにかく文学研究者で言葉の事をずっとやってきて、言葉を媒体にする愛着もあるし、と同時に言葉ではできない事に対する憧れもあった。で、非言語の世界に興味を抱いて生きてきた。だけども、黒沢美香さんという人に出会ってその具体的な道が開けたっていうんですか。
もともとは1990年代に、慶應大学の日吉キャンパスでは毎年大野一雄さんを教員有志で、新入生歓迎行事でおよびしていたんです。そういう経緯もあってわりとダンスに縁があった。私もその大野一雄の公演をみて非常に感動したクチなんですけれども。そのあとも3年間継続して、石井達朗さんに相談しながら、H・アール・カオス、黒沢美香、笠井叡のお三方をお呼びして、2005年から2007年まで公演を行いました。2005年は、美香さんに公演だけでなくてワークショップをしてもらったんですよ。私はとにかくそれに惚れ込んじゃったので。その後、さっき話した文部科学省の教育プロジェクト「身体知を通して行う教養言語教育」というのに美香さんをお呼びして、色んな教育実験に協力していただいたりした。それから美香さんのスタジオに通うようになりました。
身体と言語
― どんどんハマっていったんですね。
武藤 そうそう、ハマっていって、慶應大学の教養研究センターってところで身体知プロジェクトが始まっていて、そこの所長に横山がなったんですね。そういう形で色んな形で大学ともリンクしながら、美香さんに協力してもらいました。それは、公演だったり、授業だったり、あと、日吉キャンパスの一般公開講座で、前野さんと黒沢さんと私が共同で講座をやったり、大学の中で色々活動していったのですが、と同時に個人的な興味として、言葉の外の世界に興味があったので、ある時、思いたって美香さんのスタジオに行ったという経緯です。
(鳥取公演 photo:中島伸二)
― 研究だけじゃなくて、実際に自分の身体でということが始まったんですね。研究とか、身体と言葉とか大学教授で興味のある方は多いと思います。でも、実際に自らの身体でやることは少ない、しかも、本気の実演家になってしまうのはなぜだと思いますか?自分の身体を捧げるじゃないですけど。
武藤 やっぱり言葉と言葉じゃない世界を往復していないと、人生が貧しくなっちゃうなっていう感じがしますから。
―それは直感ですか?知識?
武藤 直感。
―なるほど。横山さんはどうですか?
横山 武藤さんは本当にソロ公演もやっているし、「ダンスがみたい!新人公演」に2回も出ているし、もうりっぱなダンサーですよ。
― 自作自演の作品。
武藤 そうですよ。
横山 あとは、黒沢美香&ダンサーズでも2回出ているよね。
―今日上手の前で武藤さんが、こうやって止まってるところあるでしょ?あの顔は「ダンサーだなー。」って。
横山 ダンサーだよね。
―何でそれをもっと早く見せてくれなかったんでしょうね(笑)私は12月まで心の中で正直かなり焦ってましたけれど。最初からそれやってくれれば安心したんだけど。(笑)
武藤 まぁ、水野さんに最後にそういうプレゼントを取っといたんですよ。最後に喜びがあったほうがいい。
―ははは。横山さんはいかがですか?
横山 私は大学教育の中での「身体知」の意味にずっと、興味があった。武藤さんと同じですが、基本的に言語の世界で生きているので、身体で表現する人が、どんな言語を使うのかが興味があったんです。ダンサーとか。たまたま余越さんが新長田のダンスボックスで高校生達に振付をするっていうので、成果を見るのではなくて、教えている過程を見たいなと思ったんです。そこで美香さんと一緒に行くことになった。
私は自分がダンスをやるなんてこと、考えた事もなかったんです。その帰りの新幹線の中で急に美香さんが言われたんです。「大学教授のダンスグループを作りたい。」しかも、「一年間考えてきたんだけど。」って。もちろん自分がその中に入るなんて思ってもいなかったので、武藤さんに声をかけました。武藤さんならやってくれるだろうという事で。
― 美香さんは、活発だって仰ってましたよ。学生よりもむしろ大学教授の方が視野が広くてとにかく活発なんだと。
横山 そうですね。だから振付家ってどんな言葉を使って他人の身体を動かすのだろうということにも興味があった。同時に美香さんの言葉の使い方に対しても凄く心揺さぶられました。だから同じ興味を持つ武藤さんと前野さんはすぐにやるってなって思って。
― え?横山さんはやらないということだったんですか?
横山 私はやらない。とてもじゃないけど。
武藤 あなた、最初は「やらない」って言うタイプの人だよね。
横山 そうそう。
― いまやダンサーじゃないですか。
横山 いやいや、人の前に出るのって怖いですよ、本当に。でも美香さんに3月3日の結成時に、まずは見に来てくださいって言われて、結局そのまま入ることになってしまった。まあ確かに私もやりたかったのかなって思います。
― 本当はね。
横山 本当は。やっぱり身体って思うように動かないし、そういったことを経験してないし。動く時にストーリー性を見せようとすると、すぐに美香さんに否定されるので、それっていいなって思ったんですよ。つまり、ある意味でどんな解釈も出来るじゃないですか。こっち側がストーリー性を持たないで動いた時に、他の人たちがどういう風に解釈するのかがすごく気になるなーって。
― その“他の人”というのはお客さんが?
横山 ええ、お客さんが、です。それも探ってみたい。どうしてもストーリー性って入っちゃうじゃないですか。そこで困っていると、美香さんがヘルプしてくれます。たとえば「そこに水溜りは見えますか?」って。まだまだ乗り越えなきゃいけないことがたくさんです。
―というと、皆さんに動きの出し方はまかされているのですか?
横山 そうなんです。でも美香さんの場合、動きの必然―こう出たら、身体はこう動くでしょ、という理由をいつでも求められるんですね。本当にはじめて自分の身体と向き合っている気がします。同時に動いていると感情が動いちゃう。以前、美香さんが、自分の踊る原動力には「怒り」があるって仰った事がある。
―横山さんも怒りがあるから踊るのですか?
横山 踊っている方って怒りや悲しみが原動力になっている、っていわれる方がいます。私の中にもそれがあるような気がするけれど、人間って自分のことが一番良く分かっていない気がするので、ちょっとそこを突き詰めていきたい。まだまだ私は踊りってよく分かってないです。
人前で踊ることにもまだ違和感があります。踊ることで未知のものに対峙しているわけだけれど、それじゃそれが大学でやっている事に関係してくるかっていったら、関係させようなんてまったく思ってないです。
ただ、私自身のためにやっている。大学では奨学金などお金を頂いたらすぐ成果を示す世界で生きてきたけど、踊ることではその考え方は一回やめようって。何かそのうち見えてきて、それが今まで自分が行ってきたことに戻ってくる時があるのかもしれないな、と思っています。
― 最初に言葉で解明しようとしていたお二人は身体論のほうは逆に見えてきたことってあるのですか?実際に自分の体で実演をして。
武藤 身体論って結構流行ってますけども、言葉だけでやっている人の虚しさみたいなものは見えてきた。
― 最初は武藤さんも大学教授っていう肩書きだけで、そういう風に見られていたのでは?
武藤 言葉は好きなんですよ。好きなんだけども
―理屈だけではない領域が見えちゃった?
武藤 うん。で、単に言語と非言語が対立しているんじゃなくて、どっかに深いところで通じあっている部分が見えてきて、言葉が空回りしている身体論は、あぁ、この人はこんな感じだなって。
― 公演が終わった後にそれを是非、書いてもらいたいですね。実際にやった人じゃないと書けない事ってあると思います。
横山 言語化はね、ホントにしたい
― 限界はもちろんあるし生ものじゃなきゃ出来ない瞬間、今しかないという舞台と、読み物としてわくわくする文章って面白いですよね。
横山 それは分かります。
―実際には踊ったことがない評論家なのに、まるで自分の体でダンスをした感覚がわかっているような評論を書く人。そういうことが感覚で分かっちゃう人っていますよね
武藤 そういう人って稀にいますよね。
<前野さん、母校の教頭先生との面会から戻る>
(鳥取公演 photo:中島伸二)
― 前野さん、なぜ、こんなに忙しい方々が、美香さんの元でダンス修行ともいえる活動に参加する事になったんだろうということをお聞きしてたんです。
前野 最初、僕は見せる自信も見せたい気持ちもなかった。最初から踊りたいと思っていたのは武藤さんだけだったんです。最初は、練習だけならいいかと思って始めたんですよ。今思えばあれは騙された(笑)。
― ところが「踊2」に選出された段階から、作品がまだみえてない段階から、チケットを売って公演する各地のツアーが4ヶ所決まっちゃいました。それってプレッシャーでしたか?
横山 それはプレッシャーですよー。
― リアリティはその時にあったんですか?
前野 うん。リアリティはあるし、僕の場合は美香さんが振付するからついていけばナントカなると思ってた。
― 自分を活かしてくれて、ちゃんと作品が商品になるっていう自信があったんですか?
前野 自信があった。
横山 それは黒沢美香の名前があるからってこと?
前野 美香さんの名前というより、美香さんに自信があるからですかね。「僕は体が堅いから駄目」と言うと「身体が堅いのがいいのよ。ダンサーみたいなグニャグニャした身体に出せないタンスみたいな美しさがある」って。だから、下手だから心配とは思わなかったですよ。だから、僕の場合、ついていってやっていけば仕上がるっていう自信があった。他の2人は違うかもしれませんが。
武藤 ボヤっとしてる時は、美香さんからピシっとしたメールくるし、そういうのはあった。追加練習お願いします、みたいに返すんだけど。
横山 すっごい厳しいお言葉頂いたよね。
前野 振付の順番を覚えるのがやっとのころには、段取りだけを確認するつまらない踊りになってたんだよね。
横山 段取りって空気のように身につくもんなんですねー。
前野 うらやましい。僕は段取りを覚えるのに必死。
横山 それが出来るようになったら絶対に忘れないじゃない。私、自分のパートで小さな振りを沢山つくって踊る部分があるんですが、全然うまくいかなくって。美香さんに言われたのは「刺繍のように」縫い進める。
わかるのだけれど、最初はまるで駄目だったけど、最近は出来るようになった。まだまだ伸びていこうって思っている。
―今日やった内容はまた変わるんですか?
横山 変わると思う。
―それは三人三様で勝手に変わるんですか?美香さんは何も仰らない?
横山 美香さんも仰います。
前野 美香さんは、美香さんのイメージ通りに踊るための助言もくださいますが、アドリブで踊れとも仰います。自分たちらしく踊るようにと。
―駄目だって言われる時はどんな時?
武藤 私の場合は踊りがもともと濡れてる体質で、ビショビショになるので、それを乾かすような事。
― 陰湿ってこと?
前野 なんかべたーっとした。
武藤 やろうとすると自分の中に入っちゃう自己陶酔型みたいな。自分では意識してないんですけど。
―ナルちゃんですか?
横山 あーそうだね。
武藤 私の個性で変えようがないんだけども、それを出来るだけ乾かした方がいいだろうと、美香さんのお考えです。それなりに乾いてきたかな。
前野 乾いてきたところと、べたーっとしたところのメリハリが出てきてる。
― お互いに見あって言い合うんですか?あれは良いとか悪いとか。
横山 いいます。いいます。こうしてくれとかお願いする。最近は私が一方的に過激にお願いしているかもね。
前野 美香さんとはまた違うんですよね。「武藤さんずっと止まってるけど、あれは良いんですか?」って聞いたら、美香さんはいいって。「長いけどその後があるからいいんだ。」って。僕らの色んな希望を言うと美香さんはいいというときとだめというときがある。それぞれ意見は違うけど、最後は大将がナントカする。
―前野さんが自分に対する駄目だしで気に入ってるのって何ですか?
前野 「いつも見せる身体でいなさい」です。
― 厳しいけどいいですね。
前野 今回、僕は、止まってるシーンが多いじゃないですか?止まっててちょっと気を許すと「死んだ身体でいないでください、ずっと生きててください。」って。なんでばれるんだろ?ココロが乗って、タラタラタラララという音楽をかみしめてじっと楽しんでいると、いいとおっしゃる。それを見抜くところが、やっぱり美香さんは天才なんだと思います。「観客には分からないものが私には見える」って仰ってましたもんね。
― まあでも結構お客さんもわかりますよ。
武藤 そうですねーわかりますね。
―振付家は、ずっと見ているから慣れて分からなくなってしまいがち。観客は初めてなんで結構鋭く見てる。その視線をいつまで保てるか常に新鮮な目線でみれるかですね。
横山 その事は前に私たちも美香さんに質問したね。常に新鮮に見るって事はどうしたらできるのか。
―演出家は距離を持たないとできませんからねえ
横山 それに身体は堅いし、ダンサーのように動けないじゃないですか。そこで持っている身体言語が美香さんとちがうんですね。
― 美香さんがトレーニングして出来るようになってほしいとは思わないって。今の皆さんにできる事をいかに探すって事なのかな。
前野 「ココまで手を上げてください」って言われ、やってみても上がらないんですよ。3年前は驚かれました。しかし、最近は分かった上で、僕たちの体が活きる場所を見つけてくれている気がしますね。
(鳥取公演 phto:中島伸二)
― なるほどね。この作品あと3箇所で公演ですが、ダンサーとして出演者としてこう見せたいなというのはありますか?
横山 具体的なことになっちゃいますけど、すごい緊張するので最初出るところでふらつかない。これだけです。
― 今日は大丈夫でしたね?
横山 そんな事ないです。
― お客さんは、やっている人がぐらぐらしても、精神がぐらぐらしてなきゃ大丈夫なもんですよ意外に。ぐらぐらに動揺してるのが見えちゃうんですね。どうしようっ!ってなると途端に分かっちゃうんです。それ今日出てなかったと思いますよ。私にはわからなかった。
武藤 この人(横山さん)なんてずる賢いんだろう!と思ったのは今日、ぐらぐらしている時、ぐらぐらしている振りのフリをしたんですよ。
―武藤さん一緒に出ていてやられたーって思ったんですね!?
横山 あとは出来れば楽しくやれたらいい。今は自分が必死だし、二人との関係をもつのも必死なんだけど。そのうちお客さんとも関係がもてるのかな。
武藤 共通のところがあって、基本的なぐらつかないとか、ピタッと止まるとかその辺がキチンとこなせるようになりたいと。それが出来るようになれば恐らく即興的に動く部分も違ってくると思うんですよね。どういう風に違ってくるのかも楽しみたい。ルーティン化する恐れもあるけど気をつけながら、また新しい公演だと思って楽しみたい。
前野 同じですね。楽しみたいし、冷静に没入して心がぶらつかないベストな状態を見てもらいたい。それから、やはり、ダンサーではない人でもその人らしく踊れるんだ、ということ自体を楽しんでもらいたい。今日は今日なりにベストは尽くしましたけど。それを更に高めていきたい。
― 前野さんから踊ることについてのエッセイ(電子書籍AiR 3『ダンス、してますか?』電気本、2012年)を送ってもらいましたが、あの探究心、自分の中で自分を見ている、自分をみて作れるかどうか、その辺はどうですか?公演やってみて。
前野 自分としては、今回も、心は澄み切っていて、色々見えた気はしました。しかし、まだ心先行で身体はついていってないかも知れません。割と冷静に自分を見ていたつもりだったとはいえ、上にスモッグが出たことなどゲネでは気づいた事が、今日は気づけなかったり、感性が狭まってる気はしました。でも、今日の踊りは、98点です。うまい下手とか、表現できたできないじゃなくて、いままさに未熟さも含めて存在している3人の体と心自体がダンスなんだと思う。だから、いつも自己評価は高いです。いつも100点と言いたいくらい。
横山 いつでも向上心高いよね。前野さんの存在は大きいね。
― そうなんですね。常にそれを心がけているんですね。
前野 僕は、幸福研究者の使命として「楽観的でポジティブであること」を目指している面はあります。「ポジティブに未来をめざすぞー!」みたいな。横山さんは怒りを表してるようにも見えますよね。それはそれでやはり未来をめざしているんだと思う。
横山 そんなー!?でも怒っていていいのかな。
― 横山さんの本音がだんだん出てきたところで、あとは福岡公演を楽しみにしています!ありがとうございました。
(鳥取公演 phto:中島伸二)