インフルエンザの猛威も収まってきたのかな、と思ったら寒さがもどってきましたね。最後の冬でしょうか?
「踊2」プログラム・ディレクター水野です。
巡回公演もラスト2ヵ所、東京・京都公演を残すばかりになりました。
2月21日:NEWS「主催者が推す理由―今年のAプロ3作品。」でもご紹介しましたが、東京・京都公演で上演致しますダンス・イン・レジデンスを経て約半年間、作品制作を続けてきたました3作品をご紹介します。

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黒沢美香作品「渚の風<聞こえる編>」をご紹介します。

>>「ダンスはダンサーだけのものではない。」
3人のからだにおりてくるものは。


福岡公演より photo:泉山朗土

『渚の風<聞こえる編>』
晴れやかにつったっていることを知らないでいるわけにいかない。(黒沢美香)

演出・構成・振付: 黒沢美香
出演:ミカヅキ会議(前野隆司、武藤浩史、横山千晶)
オリジナルソング「舟歌」作詞・作曲:武藤浩史
音:サエグサユキオ
衣装:武藤眞子
演出協力:首くくり栲象
制作:平岡久美(Dance in Deed!)

ミカヅキ会議
【メンバー】前野隆司(慶應義塾大学教授、ロボット工学者)、武藤浩史(慶應義塾大学教授、詩人、作曲家)、横山千晶(慶應義塾大学教授、英文学  者)、黒沢美香(振付家、ダンサー)。

【ルール】第一(月)指定の場所に10時集合。遅刻をしない。空いている部屋で稽古する。これがなににつながるのか疑問でも歩む。恥ずかしさを力に変える。

【モットー】(1)緻密な頭脳は呪われた祝福と開き直る。(2)真理の到達不可能性を知りながら、能天気にそれを追求してしまうお目出度さが憲法。(3)謝罪を口にする傲慢さは捨てる。(4)うまくなってはいけないが、とがってなくてはならない。

【活動歴】2011年3月結成、5月「ワタヌキさん」(慶應義塾大学日吉キャンパス来往舎)、2012年「渚の風」(日暮里d-倉庫)。
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初演の鳥の劇場での公演から、約1か月後の先週の福岡公演の様子は、NEWSでお知らせしたとおり会場を沸きに沸かせたミカヅキ会議。
「報告するぜ!!」での取材記事“「忘却」そして「地に足がついた幸福感」”も合わせてご覧ください。
12月までのリハーサルに何度か立ち会い、1月の鳥の劇場の初演を終え、だんだんと何故黒沢美香さんがこれほどまでにミカヅキ会議に惚れ込むのだろう、ということが私なりに見えてきた。ただ、本当にひざを打つほど得心したのは、やはり先週の福岡公演だった。その魅力をたっぷり感じた。公演を見に来ていたバレエ教室に通う中学生の女子男子からも、自分たちが踊っているバレエとは違うけれど、うけにうけてしまう魅力がある。その本物のおもしろさとは、なんなのか。黒沢さんのミカヅキ会議とダンスへのこだわりを語ってもらったインタビュー抜粋を紹介します。

黒沢さんインタヴューより抜粋

「ダンサーがダンスを踊るダンスではなくて、ダンスの間口をいろんな角度にもっていきたいと思うんです。ダンスというものは、いじめられて、鍛えられて、ゆさぶったりして強くなっていくと思うんです。そのためには、いろんな人のからだが、踊ろうとする機会を持ちたいと思うんです。」

「ダンスがダンサーのものではないというのが、まずひとつあります。誰のからだにもダンスが起こるという事をみてもらいたい、というのがあります。だから、それのために、なんというんですか、火あぶりじゃなくて、なんでしたっけ・・・生贄。これいっちゃうと誤解が出るけど「犠牲。」ダンスのために、ダンサーが踊らなくたって、ダンスというものは成り立つんだ、という問い。ダンスはいったい、どこに立ちあがってくるんだろう、誰に立ちあがってくるんだろう、という問いを彼らが引き受けることになります。」

「ミカヅキ会議の皆は、ダンサーより上手く踊ろうと思っていると思います。ダンスが上手いとか下手とかいう物差をひっくり返したいという、そうという気持ちがあると思います。」

福岡公演より photo:泉山朗土

黒沢さんの稽古は、相手がだれだろうと容赦なく差別なく行われる。普段からダンスをしているダンサーだろうが、そうでない人だろうが無関係。コミュニティの参加者を相手に作品をつくってください、というオーダーの場合、よくあるのは、参加者がやめないように気をつかいながら稽古をする振付家が多いと思うが、黒沢さんはそんなことは無論しない。ダンサーでもコミュニティの人でもミカヅキ会議相手の稽古でも同様に激が飛ぶ。きっと、黒沢さんは人のためにやっているわけじゃなく、ダンスのためにやっているからなのだと思う。本物のダンスが立ち上がるために活動しているアーティストだから。そして、そこに同意して、自分の身体を使ってそうなりたい、そういう境地になってみたいという、黒沢美香さんのダンス哲学を自らの体を通して実証したいと名乗りをあげ、そのダンスに対する追及の姿勢を師匠と仰ぐ3名がミカヅキ会議なのだ。本物の動きだけが許される黒沢作品を踊るミカヅキ会議の必死になって踊る姿は、とてつもなくおかしくて、カッコいい。むしろ、嫉妬心が湧くほどだ。映画のワンシーンのような加山雄三と吉永小百合と浜田光夫がいるような遊び心のある演出がにくい。黒沢美香とミカヅキ会議の本気のこの取組から、ダンスという表現の深さがみえてくる。そうだった黒沢さんのダンス哲学は「「ダンスはダンサーだけのものではない。」です。ミカヅキ会議の皆さんの潔い身体とダンスを是非、観ていただきたいです。


鳥取公演より photo:中島伸二

◆新倉健(作曲家・鳥取大学教授)
不思議なダンスである。これまで経験したことのない奇妙な感動を覚えた。
まず、ダンサーの肉体の不思議な存在感。踊っているのは鍛練されたフツーの人間(三人の大学教授)たち。いわゆるプロのダンサーではなさそうな、彼らのステージでの存在感に引き込まれていく。振り付けには、上質のミニマルミュージックのような緻密な細部と綿密な構成が感じられるが、ミニマルの窮屈さや退屈からはするりと逃れているという感じ。意味が有りそうで無さそうな言葉、時間の無いところを夢見ているような歌。
このダンスは夢の領域と深く関わっている気がする。