アーティスト・選出理由

Aプログラム[ダンスプロダクション]

作・演出家・振付家が、作品に必要な構成メンバー(美術・音楽・映像など)を
編成し作品制作を行います。


[公募・選考概要]

(応募要項・選考方法詳細はこちら→>http://odori2.jcdn.org/entry.html
2016年3月から5月18日まで、全国公募で新作のアイデアを募集。
1次書類選考を経て、2次選考〈公開プレゼンテーション&質疑応答〉を全開催地の主催・共催者により、
5/31・6/1あうるすぽっと(東京)で選考を行った。


[募集概要]

作品に必要な構成メンバーを明確にし、多角的な視点でのダンス作品の新作制作を行い、
2017年1月―3月の全国巡回公演(札幌・仙台・福岡・東京・京都)で、3か所から4か所で上演する新作のアイデア。


[A-①] 選出予定作品数 2–3作品

1グループ5名までの構成メンバーで、30分程度のダンス作品(新作)を制作する。
*作品制作費100万円、及び巡回公演の上演料として1地域10万円をサポート。
*城崎国際アートセンターでのダンス・イン・レジデンスの機会を提供。
*巡回公演時における旅費、及び、公演を実現する舞台スタッフなど全てを提供。


[A-②] 選出予定作品数 1–2作品

1グループ7名までの構成メンバーで、45分程度のダンス作品(新作)を制作する。
*作品制作費120万円、及び巡回公演における上演料として1地域12万円をサポート。
その他はA-①と同。


[応募数]

◎応募作品数:33作品(関東21/静岡1/関西5/ベルリンン3/フランス1/N.Y2 )
◎2次選考対象作品数:A①—4作品/A②―6作品 計10作品(東京7/静岡1/京都1/ベルリンン1)


[選出作品]

A①プログラム 2作品 岩渕貞太作品/山下残作品
A②プログラム 1作品 黒田育世作品


[選出作品・選考理由]

文:水野立子/「踊2」プログラム・ディレクター


A①プログラム


[応募作品]

岩渕貞太作品

[選出理由]

「踊2」ではこれまで自作自演を奨励してこなかった。むしろ“構成メンバーを明確にし、外からの視点を持った作品制作”を選考の重要な基準と位置付けて来たのだが、7回目の開催にして初めて、異例のソロ作品の選出となった。
「作品は自分の思想を表し、踊りは体が思考している状態」と語る岩渕さんのソロ新作に、ダンスが舞台上にどれだけのモノたちを引き攣れて来てくれるのか、に期待したい。
選考会では決して流暢ではなく、むしろたどたどしく言葉を探しながらのプレゼテーションだったが、根底にある部分で岩渕貞太という振付家が、いま自分の体を使ってソロで作品をつくる意義や、舞台上で観客が向き合う体はこの作品にとってソロがよい、という必然性を持っていることが受け取れた。注目を集め始めている中堅の振付家としては珍しく、ここに踏み留まってはいられない自分を駆り立てる一種の焦りのようなものがあり、「踊る」ということでどう世界と繋がれるのか、自己完結や等身大の自分のための踊りではなく、その先の世界とコミットできる踊りでありたい、という欲望の強さに期待を感じた。この思考性は、8年間活動をともにし影響を受けてきたという、昨年亡くなった師・室伏鴻の置き土産のようにも思えた。
具体的な新作のアイデアとして題材となっている「誘惑」というキーワードは、本来ダンスが持っている特質とも言える“見てはいけないもの・色気・猥雑さ”というものを想起させるが、昨今、舞台芸術の中で扱われるダンスの中では稀有なものになってきているように思う。この「誘惑」という危険で不安定な響きを中心に据えるコンセプトは、新鮮に響いた。注目した視点は、「音楽・身体・観客」というプリミティブな枠組を設定し、そこで踊りそのものを見せるというよりも、“舞台上にある体と観客の間に在るもの”を感じてもらうための布石として、構成メンバーを決定しているところ―作品制作の志向性に共通点を感じるという東京デスロックの演出家・多田淳之介さんを登用し、音楽の選曲を委ねるというアイデアや、言葉をプロジェクションする試みを行う映像に細川浩伸さんをむかえての共同制作は、ソロダンスに化学反応を起こすことに期待が持て選考委員の触手が動いた。


A①プログラム


[応募作品]

山下残作品

[選出理由]

“ダンスカンパニーを立ち上げる過程をダンス作品にする”という新作のアイデアは、ドキュメンタリーとフィクションの両方の要素を含み、且つ、それを時間の経過が存在する舞台作品としてどう構成していくのか、予想のつかない新作を観てみたいという期待感を持ち選出した。
プレゼンを聞いている間、2008年に公開された大島新監督「シアトリカル」劇団唐組の記録・ドキュメンタリー映画を思いだした。ドキュメント映画といいつつも、フィクションシーンをいくつか挿入し、事実と虚構の認識とは何なのかを考えさせられる映画だった。今回の山下さんのコンセプトは、最初からフィクションである“舞踊団を立ち上げる”というある結末が用意されている。それをダンス作品としてみせるために、どのようなダンス制作の手法が開発されるのだろうか。選考会で、「自分の作品は、いくら物語やセリフがあったしても、演劇ではなくダンス作品にしかなり得ない。」ときっぱりと言い切った山下さん。これまで、フリーランスの振付家として活動してきた山下さんは、「個」にこだわって作品制作してきた。20年以上の活動経験の末、いま団体・グループで作品をつくることに必要性を感じたと語る。
ダンスカンパニーを結成する、と聞いて今の時代まずは、経済的な困難さ、人と共同制作することのハードル、普通で考えるとネガティブな要素がまず思い浮かぶ。そのことを敢えて作品のコンセプトにすることに、山下さんのダンスに対して、言い換えれば、生きることに対しての哲学が垣間見え、同時にそれはこの時代にダンス作品に求められている要素として描かれていくように思う。関西を拠点に活動している振付家として、山下残さんの代表作にしてほしいという期待をこめて選出した。


A②プログラム


[応募作品]

黒田育世作品

[選出理由]

黒田育世さんの率いるBATIKの作品は、ダンスそのもので世界観を表現することに定評があり、ハイテンションな身体を駆使したパワフルなダンスが思い浮かぶ。自身のダンスを“言葉のない境地・言葉を持たない存在”に準えてきたように思う。
ところが、今回の黒田さんの新作のアプローチは“言葉とダンス”に対峙し、[文章の舞踊化]を試みるというもの。新たなBATIKの魅力が開花する作品になるのではないか、という期待を持ち選出した。
多くの振付家には、「どうしても言葉に置き換えられない、説明できないものをダンスに託す。」という想いがあり、観客は、抽象的な表現を得意とするダンスでしか表せないものを観たいと思う。今回の黒田さんの試みる“ダンスと言葉”の関係は、ここから少し離れる。
「体の皮膚は踊りで溶かせるが、言葉の皮膚は溶かせない。」と語る黒田さんは、もともと言葉に対して恐れを持っていたようだ。が近年、2度ほど小説からダンス作品をつくるという試みを重ね、ギアが入った今のタイミングで『鳥の仏教』という中沢新一氏の著作本を舞踊化していくことを試みる。この本のタイトルには、“仏教”とあるが、黒田さんが着目したのはむしろこの著書が、“仏教以前の人類の思考であるアミニズムときわめて似ている”という記述された点だったと言う。“人間の心と、鳥や獣の心が往き来できる神話的思考が、アミニズムと密接なつながりをもっている”と記される本著にある思想と、黒田さんの振付作品に内包される思想―人間だけでなく、人間以外の生き物の心の領域をダンスに託す思考と通底するものがあったのではないか。
思考が言葉として置かれる以前、まだ言葉という形にならない領域まで遡り、その正体を掘り起こそうとすること。黒田さん自身の言葉でいうと“ダンスで言葉を逆流させる”という振付手法に期待を寄せたい。
言葉にならないことを表現するのが、ダンスのひとつの在り方だとすれば、今回は言葉や思考の根源的な部分をダンスによってさらに見つめようとする試みになる。BATIKの確立された15年間の活動の先に現れたこの新作のアイデアだからこそ、大いに注目すべきものを感じることができた。
また、選考会の質疑応答の際、「何故、『踊2』に応募したのか?」という問いに対し、「これまでBATIKでは、長い上演時間の作品が多く、再演に恵まれてこなかったので、再演をしながら成長していく作品をレパートリーに持ちたかった。」という返答を聞き、「踊2」の巡回公演での再演システムを活用できる機会として選考する要素となった。