佐成哲夫インタビュー [Bリージョナルダンス:仙台]
「話すのはどうも苦手で・・・ちょっと時間貰っていいですか?」 そう言いながら、外に出て行きなかなか戻って来ない佐成哲夫さん。仙台でのレジデンス・クリエイション4日目終了後の稽古場にて、今回の作品「夢を見ているわけじゃない」について、また出演者についてお話を伺いました。
2013.12.23
聞き手:千葉里佳(からだとメディア研究室代表)
撮影:伊藤み弥
会場:せんだい演劇工房10-BOXにて
―今回、Bプログラムに応募しようと思ったのは?
ここ数年は、即興的なソロパフォーマンスを中心に活動していたのですが、それとは別に人を使っての振付作品を創りたいという思いはずっとあったんですね。それでこの「踊りに行くぜ!!」Ⅱ は前から気にはしていたんです。個人的にもいいタイミングで、思い切って応募しました。本当のこと言うと、応募するならもうちょっと作品の構想を練ってからにしようと考えていたんですね。でも、どうせやるなら今だと思い、テーマを決めて慌てて応募しました。
このBプログラムというのは、馴染みのない土地で、お互いを知らない人達と作品を創るということなんですが、その作業が自分に新鮮な感覚や発見とか気付きをもたらすのではないかと思ったんです。場所や人との出会いから何が生まれるのか。そこに興味があるし、きっと思い通りにはいかないはずで、そうした時にどうするのか、といったことを考えているうちに思いがけないモノが生まれたりとか。そういったことが面白いですね。
この場所で、ここで生活している人たちと作品を創るという過程が、作品やお互いの価値観にどういった影響を与えあうのかこれから楽しみです。
-仙台の街、人の印象はいかがですか?
僕は石川県出身なんですが、気候や風景、穏やかな人の感じがちょっと似ている気がします。だから落ちつきますね。
昨日歩いていて人とぶつかりそうになり、かわそうとして右に左にお見合いになり最後はお互い「すいません」と言って別れたのが面白かったですね。こんなに道は広いのに。それと駅のキヨスクが日中でもやってたり、やってなかったり、なんて自由な。おまけにお店のおばちゃんが喋ること喋ること。そういったちょっとした触れ合いに「仙台に居るんだなあ」って感じますね。
僕は、普段から歩くことが好きなので、ここでも滞在している周辺を結構歩いてますよ。歩くことでその土地にいるという実感が湧いてきます。身体が馴染むというか。来たばかりだと身体もよそよそしく感じますからね。今はまだ滞在場所の住宅地と稽古場の倉庫街の周辺しか見ていませんが、そのうち仙台駅周辺の街も歩きたいですね。
-仙台では今年度初めてBプログラムの出演者オーディションを行ないました。人を選ぶって、大変なことだなあと感じたのですが、出演者を決めるにあたり、佐成さんは応募されてきた方たちに何を求めていたのでしょうか?選出する決め手となったようなものを聞かせてください。
ワークショップ+オーディションが終わった直後は、全員で作品を創ろうと思いました。みんなからやる気を感じたので。それさえあればなんとかなるでしょ、と思って。でも実際の限られた稽古期間のことなど考えると、ちょっと厳しいかもと。それと自分が何をやりたいのかを含め、もう一度考え直しました。
僕はシンプルなことをしている時の身体を見ています。例えば、ただ普通に歩くとか、ゆっくり歩くとか止まるとか。そういうことが僕は重要だと思っているし、その人の持っている身体の感覚や感性など少なからず見える気がします。ダンスのテクニックはそんなに重要だとは感じていません。舞台にしっかり立つことが出来ればそれでいいのです。
それと全体的なバランスを見て決めて行きました。今回はたまたま10代が4人、40代が2人と変わった構成となりましたね。この対比も面白いなあと思って。
— 先日、クリエイションの中で出演者たちに「存在感のステキな人たち」とおっしゃっていましたが、佐成さんにとって「存在感」とはどういうモノ/どういうことなんでしょうか?
何なんですかね?目に見えない、とても感覚的なことなんですけど、きっとその人が持っている生命エネルギーのようなものなんでしょうね。
よく立っているだけで素敵だとか、そこにいるだけで圧倒されたりすることがあるのですが、それがその人が持っている存在感なんだと思ってます。
— 作品の中に登場する「本たち」は、佐成さんの作品にとってどういう役割を担っているのでしょうか?
本をモチーフに初めて使ったのは、ダンス白州でのパフォーマンスの時です。その時は役者とのコラボレーションだったのですが、相手が或る脚本を題材に演技をするなら自分は本を持って踊ろうという単純な発想だったんです。
いざやってみると、 その時の身体の状態が面白くて新鮮でしたね。本の一点に常に視線を集中しながら歩いたり、いろんな動きをしてみたりとか。視線を固定すると、簡単なことでも難しくなるんです。本を読みながら歩くとか動く、「○○しながら◇◇する」といった二つのことを同時にするということはものすごく集中しないと出来ないですし。だから、本を読みながら歩いている人ってあんまりいないじゃないですか。実際危ないですよ。その「ありそうでない感じ」が好きなんです。
それで、その後も本は何度か作品で使ってます。もちろん本の存在はビジュアル的にも印象的ですし。また、本は開いて始まり、閉じて終わりますよね。その繰り返しがいろんな事を連想させるんです。今回の作品は夢と現実がテーマとしてありますが、夢は寝ている時に見て、起きると現実ですよね。言ってみれば夢と現実は、寝ると起きるの繰り返しです。生まれてから死ぬまで誰であろうが、時代も年齢も関係無く永遠に繰り返されていることです。生と死ももしかしたらそうかもしれません。繰り返しとかサイクルというのは、生命の基本的活動だという気がしています。
この作品の中での本は現実と夢を繋ぐ役目としての存在です。現実と夢を行き来する重要な存在なのです。
ー佐成さんは、なぜ踊っているのですか?
とにかく何かを表現したいという思いは小さい頃からずっとあって、それでデッサンや作曲、ボイストレーニングや演技、ダンスを習ったんです。やりたいと思ったことを手当たり次第になんでも始めたんです。そうした結果、いまダンスをしているわけです。
—「表現したい」とは「人前で何かしたい」ということですか?
最初は、それはあまり考えなかったですね。まずはカタチにすることからです。もちろん最終的にはそれを望んでいましたが。
それで今、実際に人前で踊っていますが、単純に踊ることが好きなんです。その踊りたいという欲求がどこから来るのかはわかりません。でもその欲求は常にあるんです。
踊るということは、自分の存在を自分の身を持って表現するものだと思うし、生きているという実感を強く感じる瞬間でもあります。極端なこと言うと、この身体と共に生きているということ自体がダンスなのかもしれません。
— 今回の「夢を見ているわけじゃない」という作品を通して伝えたいことは何ですか?
この作品で一番表現したいことは、「夢から覚めた瞬間」です。痛切に現実を感じる瞬間のひとつだと思っています。夢という世界を自分は現実だと思っていたのに、違っていた。夢だったのです。でもきっと、夢の中の自分に「夢を見てるの?」って問われたら「夢じゃない」って答えると思います。
普段の生活でも自分はこういうつもりだったのに、実際は違っていたということはたくさんあって、そういうことに「気付いた時」と「夢から覚めた瞬間」とは同じような感覚があります。なんだか嬉しかったり、辛かったり、いろんな感覚が押し寄せる瞬間ですね。いまこの瞬間も夢だったとしたらなんて絶対思えないですけど。いつだって夢の中だって自分は現実を生きていると思っているんです。
-日常生活のなかで「アレ?」っていう気付きと、夢から覚めた瞬間に同じような感覚があるって、確かにそうですね。「夢」と「現実」ってまったく異なるもののように思っていましたけど、何だかこうやって考えると、どちらも不確かなものなのかもしれませんね。
そうなんです。それで「目が覚める」「気付く」その瞬間が、より今を確かに感じる時のひとつだと思うのです。だからそこにフォーカスを合わせたいと思っています。
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紙を置く。拾う。紙を撒く。拾う。
何度もくり返される動き。
ひたすら何かがやってくるのを待つかのように、じっと出演者を観察している佐成さん。
最初は、何をさせられているのかわからず、ひたすらやってみている出演者たち。
集中するほどにギャグを連発している佐成さん。
佐成さんのギャグに「え?わからない」と反応する10代の出演者たち。
そんな、なんとも云えない不思議な距離感で進んでいくクリエイション。
今までのBプログラムのときとは、様子が違っていて大丈夫かなあ、と思いながら
稽古を見守っていた。
けれど、レジデンス6日目に行われた「途中経過発表」では、
出演者たちのカラダ、いくつもの動きの紙片から、佐成さんが描こうとしている世界が見えてきていて、なんだか夢の中にいるような感覚になった。
オーディションによって佐成さんに選ばれた、という点だけでつながった出演者たち。
正直言って、まだ、信頼関係が生まれているとは思えないし、どちらかというと曖昧で、お互い遠慮しているような関係に近い。
そうやって考えてみたら、約束だって、ルールだって、信頼関係だって、“絶対”なんてものはなくて、“不確かなもの”だらけなのかもしれない。
でも、そこに、確かに何かが見えてきているのだ。
じゃあ“確かなもの”って、何なんだろう?
“確かなもの“ってどこにあるんだろう?そんなことを、考えたりしていました。
今さらながら、Bプログラムならではのマジックを感じています。
この先、作品も、佐成さんと出演者との距離感も、どのように展開していくのか、
愉しみです。