“Turning Point” 振付・構成:長内裕美
福岡で公募から選出したダンサーたちと作品制作する長内裕美さん。2013年10月9日に出演者オーディションを行った翌日、作品に込める思いクリエイションへの期待など、構想段階でのおはなしを長内さんにお聞きしました。 
現在は、12月に作品制作も開始、12/12には途中経過発表も終えた。3月1日の公演前の第2期制作時にその手ごたえをお聞きする予定です。まずはvol.1をお届けします。

2013/10月アートマネージメントセンター福岡事務所にて 
(テープ起こし 二宮 編集:水野)



長内:O  聞き手:二宮(N) 水野(M)

「やっぱりダンスを続けていこうと思ったことが、私の“Turning Point”です。

M:今回の「Turning Point」をつくろうと思ったのは長内さん自身の体験に基づいていると伺いましたが、このタイミングでこのタイトルの作品をつくろうと思ったのは?

O:まず「踊りに行くぜ!!」Ⅱ(以下「踊」Ⅱ)のBプログラム、初めて会う人たちとつくるということと、自分が拠点としているところとは違う場所で作品をつくることについて考えたときに、ダンサー達と共有できるテーマを持ちたいなと思って。自分が生きていく上で、今回のテーマでもある「Turning Point」が方向性を決めて生きているな、と思ったことからです。
ダンスをやってきて迷うこともあったんですけど、続けていきたいっていう強い気持ちがありました。そこには、私が20代半ばのとき、ダンスの活動をしていく中で、とてもお世話になった方がいて、でも、その方が亡くなられてしまって、凄く悲しかったんです。でも、そういう風に自分を支えてくれたからこそ、今の自分がいるということもあって「ダンスを続けていこう」って決意をしました。それが自分にとって、大きなターニングポイントの経験でした。。
人には誰もがターニングポイントがあり、キッカケになる出来事があるはずで、そこを出演者と共有できるんじゃないかと思ってこの作品をつくることを決めました。

M:今回は、長内さん自身の実経験を作品に活かすプランですか?

O:私の実体験を作品にするのではなく、各出演者のターニングポイントをメインにして、作品を作っていきたいと考えています。出演者の体験を一人ずつ聞いて、何か選んでもらって、という形で。 例えば昨日(オーディション)は、ペアを作り、そのペアの相手からイメージしたものを言葉にしてそれを自分のムーブメントに変換していくっていうのをやりました。
 今回の作品制作も、実体験から言葉をいくつか抜き出してもらって、それを出演者自身にムーブメントに置き換えてもらって、それを私が煮るなり焼くなり、引き出したり選んだりしていく。もしくは私から新しいものを提示していったり、と考えています。

N:どんな人に観てほしいっていうのはありますか?どんな体験をした人とか。例えば「Turning Point」っていうと、震災とかを考えてしまいますが。

M:自分の作品をどういう人に向けてつくるか、観てほしいのか、ということを想定しながらつくるアーティストもいますね。

O:やっぱりダンスを専門にみているダンスファンとかではなく、難しいんですけど、幅広く一般の人たちにも観てほしいっていうのはいつも思っています。

N:日頃ダンスを観ないような人にも?演劇とかステージを観ないような人も含めて?

O:人それぞれ何に興味があるかは違うので、「万人に」ということは難しいですが、こういうダンスの表現方法があるということだけでも、もっと日本の人たちに知ってもらいたいという気持ちはあります。

M:そうなると、つかみどころが難しい作品が多いように思いますね。(笑)今回は、そのための何か工夫やしかけはあるのですか?

O:今回の作品に限らず、作品を作るときは、自分がダンス作品を観て感動するように、一瞬でも「ハッ!!」としたり、何かを感じてもらえるような時間があるように、と思って作るようにしています。 ターニングポイントって例えば、キッカケであったり、驚きであったり、発見だったり、違う感情であったり。色んな要素が合わさって、作品全体が新しい違う方向にエネルギーが向かうイメージがあります。

N:変わっていくことですね。それが「Turning Point」みたいな?

O:エネルギーの方向性。Turning Pointっていうのは、あることがキッカケで、新しい驚きとか発見とか、悲しみだとか、色んな感情が生まれて、違うエネルギーの方に向かっていくんじゃないかと思っているので。それを作品で、身体で表現したいなと思ってます。

(作品制作の様子)

この作品を観てくれた人にとって、人生の「Turning Point」となる作品にしたい。

N:作品名で「Turning Point」って謳ってあるから。ターニングポイントってカタカナで書いてもわかるし。人生の岐路じゃないですけど、観にくる方も想像して観るだろうし、それが観る人に作品として伝わってくる。

M:観た人にとって、ターニングポイントの作品にするというのは、すごく大変なことですね。

N:観た人のこれからが変わるってことですよね。

M:作品ってそういうものじゃない?観た人に変化を起こさせる。

O:私も作品を観て変わったりしますね。そういうのってありますか?

N:ダンスではなくて音楽ですけど、高校のときに聴いたクロノスカルテット。あんまりそういう音楽聴いたことなかったんで、こんな表現もあるんだなって。

M:長内さんにとってはどんな作品だったの?

O:大学1年生の時に観たH・アール・カオスの「忘却という神話」という作品を観て、とても衝撃を受けました。その作品をきっかけに、コンテンポラリーダンスを始めました。他には、ピーピング・トムの「LE JARDIN」やピナバウシュの「パレルモパレルモ」、マギー・マランの「Maybe」も。

M:今回の作品が人の人生変えるっていう風に作家としてなればすごいですね。これまでは、就職しようと思っていた人が、舞台作品を観ることによって、道外しちゃったていうのが、多いですね。ダンスとか音楽とか演劇とか観て芸術の力で自分の生き方を変えられることに出会ってしまったという。今回、自分の作品をそうするっていうのが目標なんですか?

O:したいと思います。したいですね。


(途中経過発表の様子 12/12)

M:そういう意味では、二重構造。それぞれの人たちの具体的なターニングポイントっていうものを引き出して、ダンス作品にする、それが結果的にその作品を観た人が人生変わってしまうような衝撃を与えうる作品をつくる、両者にとってのターニングポイントになると。作品の力が強ければ、。「Turning Point」っていうタイトルじゃなくっても、そういう作品はあるわけで。長内さん自身がそれを意識して作るということ、人生を変えるくらいの出会いを題材にするっていうことは大きいですね。

O:私がただ構成を作って、振りを作って渡すっていうだけではなくて、私の中のボキャブラリーじゃないものを見つけて、そこからもっと発展させたものを作りたいと思っているので。私も一緒にその瞬間瞬間に見ているものを引き出して、一緒に作っていきたいって言う気持ちが強いです。

N:さっきは芸術とかダンスの作品の話だったけれど、アートに限らずターニングポイントを今回の出演者から引き出し、舞台を観て共感できるものなのか、それともっと抽象的な感じになっていくのか?

O:今回のダンスを観て「あ、こうだな」ってすぐにわかることは難しいと思います。細かい部分まで抜き出して動きに転換していくのでそんなに細かいことまではわからないと思うんです。でもどこかで、このタイトルにある様に「Turning Point」ということがイメージできるような作品になってほしいし、したいと思っています。それがどういう形になるかは、まだはっきりと申し上げることは出来ないですけど。

M:ターニングポイントって、その渦中というかその時はわからないことが多い。あとになって、ちょっと経ってから「あのときがターニングポイントだったな」ってわかる。そういう意味では何かが起きた後って言う時間差がある。だけど舞台で観る時っていうのは、時間差が無い。そこのズレみたいなことが表現出来たら面白そうですね。実際に起きているその最中と、観ている人にとってというのは、客観性が無いとそれがターニングポイントっていうことにはならないっていう。まさにタイムラグでズレてる訳だから。

O:既に終了していることを踊る訳で、でもいま起きてることとしてのこの作品は今現在の現実で。

M:そこができたらおもしろいですね。作品としてはちょっとズレがある目線が演出的には必要になってくるかもしれないですね。その二重構造みたいなものを観ている人が「ああ」って思えるものがあると面白くなってくるんでしょうね。

N:これは音楽とか映像とか、他のコラボレイターは考えられてないですか?

O:今のところは考えてないです。シンプルに身体のことに集中したいなと思ってます。

M:いいですね。12月に1回目の制作スタートですね。期待しています。