佐成哲夫 インタヴュー「仙台公演を終えて」
仙台公演を終えた翌日、Bプログラム参加アーティストの佐成さん、仙台主催者の千葉さん、伊藤さん、「報告するぜ!」の飯名さん、JCDN佐東、北本の「踊2」関係者が一堂に会してインタビューを実施しました。
4週間のクリエイションと本番を終え、Bプログラムに参加した感想、作品作りについてから、佐成さん自身のダンスに対する意識についてなどなど、ざっくばらんに話しながら、あらためて作品を振り返りつつ、今後のことを伺いました。
聞き手:佐東範一/北本麻理(JCDN)、飯名尚人(報告するぜ!!ライター)
撮影:伊藤み弥(からだとメディア研究室:仙台公演制作)
同席者:千葉里佳(からだとメディア研究室:仙台公演制作)
テープ起こし:千葉里佳/伊藤み弥
編集:北本麻理
収録日:2014年2月10日
北本:クリエイションの最初の頃に行なったインタヴューと、公演が終わった今と作品に対してや佐成さん自身に対しての印象が変わっているから、そのあたりの話ができたらと思います。それぞれの地域で公演をやった後に振り返りができるといいなあと思っていたこと、地域で作品をつくることはどうしていくのがいいのか、佐成さんのクリエイションがどうだったのかということを含めて、いろいろ話をしたいなと思います。
地域で作品をつくるということ:Bプログラムの魅力
佐東:佐成さんにとって発見はありました?こういう形でやるのは初めて?
佐成:北九州でやったことはあるんですね。ただ自分の作品というわけではなくて、「曲はこういう曲を使って」「こういうテーマで」とか、いくつか指定がある中で、そこのカンパニーと一緒につくるっていう形で。
自分の作品を知らない人たちでっていうのは、おそらく初めてでしょうね。でも、初めてということに対する不安などは全然ない。それは楽しくやりました。
発見って言えば「あ、こういう人間もいるんだ」って。42歳の吉田さんみたいな人もいれば、12歳の葵ちゃんみたいな人もいる。
北本:北九州と仙台の違いを特には感じなかったですか?
佐成:ダンスに対する知識とか情報が少ないから、どちらもみんなピュアですよね。それがとてもやりやすい。あまり先入観とかがない。「こんなことやるの?」って最初はもしかしてみんなクエスチョンでやってる。けど、ある日、「?」が「!」に変わってくる。そういう変化を楽しみながら本番までに「?」が消えて行けばいいという気がするんですよ。
クリエイションの様子@せんだい演劇工房10-box佐東:佐成さんにとってそういう人たちと仕事するのは?
佐成:僕は、大好きですね。知らない身体と出会うおもしろさって言うかね。例えば、踊りの上手な人に「こういうことやって」って言うと想像したような動きになったりする。それはいいことなんですけど、役者とかダンスを知らない人とやると、「あれ?そういうふうになるんだ」っていう驚きがあってね。「じゃあ、そっちの方向で発展させていこう」っていう気になる。結局、出演者次第でモノって変わっていくので、そういう意味で、知らない人とやるのは自分の作品を広げることに繋がる。
佐東:だよね。
佐成:逆にずっと一緒にやっているダンサーで、要求に高度に応えていくというパターンは、質を高めるために必要なことかもしれない。けど、ダンスっていう先入観があまりない人との作業が楽しかったりする。
佐東:佐成さん自身のアーティスト活動とクロスすることではあるわけ?
佐成:僕自身のソロダンスと振付作品って、自分の中では結構ちがうんですね。作品をつくるっていうのと、ソロで踊るっていうのは、挑戦の仕方がちがう。自分がパフォーマーとして踊ることと、作品をつくることを平行してやっていきたくて、どっちかに偏っていてもおもしろくない。自分の中で違うことを、同時に、これからどうやって進めていこうかな、と思います。自分の身体で体験したことが、結果、振付作品にフィードバックされるんだろうなと思ってるんですけどね。
佐東:「踊2」は枠があって、ある体制の中でできるけれども・・・
佐成:これはすごくありがたいんです。いろんな人に「何か不満はない?」とか聞かれたけれど、んー・・・何もない。そういえば、新幹線チケットの期限が切れてたり、僕の帰る日が年末で回数券使えない日だったぐらい?
一同:(笑)
佐東:ソロと振付作品の両方をやりたいっていうのはなんでだろう?やっぱり「自分を変えていきたい」という欲望?
佐成:パフォーマーとして追求していくものと、人とつくるってことで生み出したいものが、ちがうんですよね。終わった後の感じも全然ちがうし。
佐東:どういうふうに?
佐成:サッカーに例えれば、「選手としてどう戦うのか、あるいは監督としてどういうチームをつくってどう戦うのか」っていう感じ。
北本:なるほど、わかりやすい。
佐成:ゴールという目標に対して選手として、監督としてのアプローチがあると思うんですが、どっちも自分にとっては貴重なものです。一人で踊って、良い踊りができたって感じたときの身体の充実感たるや、ダメだったときのどうしようもない感じたるや、もうこの場に居られない感じ。また監督として、選手が良いパフォーマンスをしてくれたときのこの喜びたるや。まあこれ気持ちの問題かもしれませんね(笑)。
今回「絶対オレには失敗は許されない」って来る前から思ってて。このプロジェクトで僕に失敗という文字はないんです。
佐東:え、なんで?
佐成:失敗と思えるような事態には絶対したくないって思ってた。周りに失敗って言われても、自分が失敗って思えるものにだけはしない、っていう強い思いだけ持ってくれば何とかなるんじゃないかって。だから、何があっても弱音は吐きません・・・人の前では。
一同:(笑)
佐東:一番大変だったことはなんですか?
佐成:作品をつくるときは、大変なことばっかりですからね(笑)。
一番危機を感じた瞬間って、劇場に入って、素舞台で、小さいスピーカーで作品を通してみたとき。今世紀最大のピンチが訪れた。「これはやばいぞ」って。
10-BOXは稽古場としてすごく良い空間で、みんなの身体も実際とても良かったんです。けど、僕自身が引いた目線で見れてなかったこともあったんだと思うんです。劇場に入って、全体を引いてみたときに、「アレ?」って・・・
佐東:それはどんな感じだったの?
佐成:みんなの身体が届いてこないっていう感じ。何が問題なのか?劇場なのか?彼ら自身なのか?振付なのか?音なのか?照明なのか?で、次の日までにどういう対策しようかなってときが一番のピンチだった。
佐東:その危機をどうやって乗り越えたんですか?
佐成:具体的に言うと、客席と舞台の間の無駄に広い空間が嫌なので、とにかく、奥行きをだそうとしました。前に来るときは、お客から見えなかろうがどんどん前に前に来る作戦。(客席の勾配が緩いため、舞台前方が見えにくい)
わかりやすくみんなのエネルギーを客席に向かわせようと思ったんです。
それで、照明は地元スタッフの斉藤さんにお任せでやってもらう中で一度通してみた。
で、とりあえず照明と音が入って、それでもまだ僕としては足りなかったんです。ただ、照明を修正すればなんとかなるって感触で、安心できたので、思いきってゲネまでに大幅に動きの追加、変更をしました。何かが足りなかったことが幸いして、さらに膨らみを増しました。
僕は常々「ピンチはチャンス」だと思ってるんです。ピンチのときこそなにか発見があるはずだと。まあ、ある程度の予想はしてたんですけど、小屋入りしたときがやはり大変で、そのときは舞台に立ち慣れている人の存在感が出てきて、そうでない身体が前に出てこない、そういうことを感じました。でも、最終的にはみんな存在感が出てきたと思います。
佐東:それは、具体的になにか言ったの?
佐成:いや、そんなにいろんなことは言ってないです。ちょっとポイントを言ったくらいで。また、このシーンは見えてこない、意味がないというものは突然カットしたり。削る作業がそのタイミングになっちゃった。本当は、そのジャッジが小屋に入る前にできればよかった。出演者にもちゃんと説明してね。
佐東:佐成さんは昔から他の人たちとつくることに慣れているの?
佐成:どうなんでしょうね。昔は、自分のカンパニーで年一本くらいは自主公演やっていて、コンクールにも出してましたし、ある時期は頑張ってました。
佐東:今は?
佐成:今はね、いろいろ現実的な問題がね。
佐東:子どもも2人いるし。
佐成:(笑)ってこともあるし、今回、お金も時間も心配がいらないなんてどんなに素晴らしいかって感じました。だから一日中、作品のことだけ考えていられる時間っていうものが貴重な経験で、素晴らしいなって。東京にいたらあり得ない。
佐東:東京いたら無理だよなあ。
佐成:逆に、何もない場所が良かった。静かな道を毎日歩きながら、仙台の冷たい風に打たれながら、いつも考えてました。泊まってた家の近くの仮設住宅の横に公園があって、そこが毎日の僕の滞在ポイント。
ちょっと小高くて不思議なところだったんですけど、結構そこでぼーっと考えてましたね。ひとつのこと考えると、意外と他のことって考えられないですよね。ひとつのシーンの、ひとつの結論が見えてくるのをずっと考えていると、その他のことが、すべておろそかになってしまう。
佐東:「おろそかになってもいい時間」っていうのかな。そのことだけやっていればいいんだから。
佐成:ね。贅沢ですよ。それがBプログラムの良さ。そういう時間を持てる。1か月いましたけど、実際知らない人たちと作品つくるのって結構ハードル高い。
佐東:無茶だよね。
佐成:でも、僕は「1か月で作品つくるのって限界あるよね」みたいな結果になりたくないって思ってた。休みの日も遊ばなかったですね。仙台の街に行って(作品で使う)本を買ったぐらいで。
佐東:東京とかでそういう時間をつくるのが厳しくなってきたっていうのはどうして?だんだん疲れてきた?
佐成:そういうこともあるけど、毎年作品を発表する意義を感じなくなってきた。発表すればいいってものじゃないし、つくりたいものを時間をかけてつくる方がいい、って話で。無理矢理作品をつくったり、無理矢理踊らなきゃならないっていうことは、自分にはない、と思ったこともあり活動が減ってきたというのはあります。ただ、踊りに対する熱を失ったことは、一度もありません。
佐東:ソロの活動も、いろんな人とつくることもできるのだったら、佐成さんには何かやって欲しいなあ。
佐成:もちろんやっていきたい気持ちでいっぱいですよ。今はこの作品に全力投球したから、「次どんな作品にしようか」なんて今この瞬間はまるでない。明日になったらわかりませんが。
Bプログラム、オレ好きだな。Aプログラムより好きかも。Bプロの、いかに自分の世界観をつくりつつ、そこから外れていくかっていう・・・
佐東:思うとおりに絶対ならないっていうことを面白がれる人と、面白がれない人っていますよね。
佐成:絶対はずしたくないっていう事はあるんですけど、そこだけは踏まえていれば、「オレを違う世界に連れて行ってくれ」っていう気もするし。今回自分でも作品がこんなふうになるとは思ってなかったし。
北本:「こんなふうに」とは?
佐成:作品の前半とオチしか用意していなかったので。後は、みんなの身体を見ながら、ダンスを生み出したしていきたいなと思ってて。実際そうやってできていった。だから、自分は作品の後半が結構好きなんですよね。
佐東:それぞれの身体性みたいなものをじっと見ていて、それを、引きだす力が佐成さんにあって、そこを面白がれるからこそできることかもしれませんね。
佐成:かもしれないですね。まあ、何を良しとするかはわからない。身体を見ていてイマジネーションが膨らむっていうのは理想ですよね。今回、見ていて割とイメージ湧いてきましたよ。
佐東:あの吉田さんの出方にしても。あの微妙な人間性っていうのが、身体にも出ている。
佐成:微妙なことしかできなかったっていうのが彼の特徴だったんですよね。しかし、こんなに吉田さんが話題になると思わなかった(笑)。
佐東:ああいう、言わば地域に眠っている人が舞台に出て、次のステップへ行くっていうのは非常に面白いなあと思う。
北本:最初にチラシに載せるテキストの段階を経て、オーディションがあって、クリエイションの前にも資料をもらいましたけど、そこでも「最後にハッとする瞬間」、「観ているお客さんもハッとさせたい」とありましたよね。
佐成:これはけっこう悩んだんです。最後に人が「わーっ」て消えていく感じを、本当はストロボの中でやりたかったんです。で、ハッとなった時にめっちゃ明るくなっている、っていう発想だったんです。
でも、暗いとみんなが走って舞台袖にはけられない、機材にぶつかるっていう現実、具体的な理由で。あそこまで動きを作ったら、逆に照明でなんとかするのは難しいってことになり、ハッとさせ方が変わってしまった。
どっちかっていうと、最後、部屋っぽいじゃないですか?そうじゃなくて、客電も点くくらいの感じでやりたかった。
そこの詰めはちゃんとできてなくて、でも、そこに時間を割かなくても、今できる最善の良い方法はコレかなと思ってやったんですけどね。
もともとは、最後はものすごく明るくて。それがどう見えるのかはわからないんですけど、イメージとしてはそうしたかった。お客さんも「あ、」って目が覚めるっていうぐらいに。
北本:そこがおもしろいなあって思ってたんですけどねえ。
佐成:そこはね、ちょっと詰め切れてないかもなあって。最後、踊りのはけ方とか、考えてなかった。そういう意味では、やり残しがあると言えばあるんですね。次、機会があれば、そのやり残したこと、そういう形でまたいろんなことができたら、と思う。
「夢を見ているわけじゃない」撮影:越後谷出
佐成哲夫の魅力
佐東:「踊2」としても佐成さんの次なる展開をつくれたら、と思うね。でも、ちょっとこわいイメージがあるからなあ(笑)。「この人、ちょっと危ないんじゃないか」みたいな。
飯名:「佐成さんの魅力って何か」ってことですけども、佐成さんは作品に対する即興性が高い。場当たり的に「ちょっとここで踊ってよ」ってなったときのダンスがすごい上手い。ここで30分やる、みたいなことになっちゃった場合でも、その30分が仕立てられるんです。ちゃんと作品つくれっていうと、たぶん逆で、できないタイプ(笑)。本人の目の前で云っちゃうけど(笑)。
佐成さんは、田中泯さんたちがやっていた「ダンス白州」に毎年参加していたから、踊りの空間とか時間とか、白州での影響もあると思う。
ところが、即興のダンスって「そういうの、そもそもダメ」っていう風潮も生まれて来た。「即興だからねぇ、あれは」みたいなこと言われたりする。
でも、佐成さんのダンスは、そこが肝で、それを見せないと佐成さんの良さは伝わらないような気がするんです。佐成さんのパフォーマンスって、即興だから、いつも後半グズグズなの(笑)。
佐成さんの子どもがまだ小さい頃、本番の最中に「お父さーんっ!!」って走って舞台に出ちゃって、佐成さんの足にずっとくっついたこともある。それでも本番だから踊り続けていて。そういうことも面白いわけですよ。
それでもいいんだ、それがいいんだ、みたいなダンスが今は少ない。佐成さんはそっちへ行こうとするんだけど、風潮はそうではなくて、きちんとパッケージ化されたものを、みんな優等生になって作る。即興舞踏の面白味はあまり伝わってない気もしています。
佐成:結局、今回の選考会の資料で提出した『井筒』も即興的な作品でした。飯名さんが音をやって・・・
飯名:なぜか僕がDJで、韓国のメディアアーティストが映像で、佐成さんがソロで踊った。ダンサーが立ったところに水の波紋の映像が出る、っていうセンサープログラムで、佐成さんが即興で踊った。僕も即興で音楽を出す。能の「井筒」っていう演目をメディアパフォーマンスでやってみよう、ということだった。
即興のような「ブレ」の必要性って、今回のAプロの余越さんや黒沢さんは楽しむタイプの人だと感じました。もちろんきちんと作品つくれる人なんだけど、要所要所に、自分でも結果がわからないっていう部分を残してて、それは即興的なことです。それもひとつのメソッドだと思うんですよ。即興を成り立たせられるわけですから。
今回のBプロで、そんなようなメソッドを、佐成さんがもっと伝えられると良いんだよなあって感じた。適当にやるんじゃなくて、成り立つ即興って何かということ。
佐成:昨日、余越さんの話を聞いていて、作品をつくっている中で、自分がヒヤッとする、自分でもどうなるかわからない瞬間をつくってるっていう、その感覚っていいなあと思いました。今後、そういうのをどうやったらつくれるかな、って考えてみたいと思います。つまり、出演者にとっても、予定調和で終わらない何かの瞬間を生み出すための方法、初めて使う人だろうがなんだろうが、絶対そういうものって生むことができるはずだって思う。
飯名:地元選出枠の出演者の体を見ていると、彼らもそういうメソッドって理解できるように思ったし、佐成さんの場合、「はい、踊りなさい」って感じではないから、演劇をやってる人にはタッチするような気がする。
佐成:もし、踊るメンバーが地元枠の人たちだったら、また違う感じになったろうなあって思う。最初からこういう作品って決めきってないから、そういう伸びしろは常に持っていたいと思うし、自分の作品が人によって変わっていくことの面白さを自分が追っていたい。そして、ヒヤッとする瞬間ね。いやあ、ヒヤッとしたい!(笑)自分が見ていて緊張したい。
飯名:今回のBプロメンバーで、それはできなかったことなのかな?
今回、僕は見ていてちょっと悔いがあって、佐成さんが「作品を作っている」という感じがしちゃった。「その場の環境で踊る」というような要素がなかった。それはできなかったの?
佐成:やっぱり難しいことだと思うので、そこからは入れてない。僕自身が、まだ見えてないってこともあるだろうし、他人にどうやって入ってこさせるかっていうやり方も見つけてないし。でも、今後作品をつくるための良い取組みの一つで、持ち帰れるなあって思う。今後は、与えたものだけじゃなくて、瞬間に生まれるものをどう作ろうかな、って。今回、実はその発想は持ってなかった。「とにかくつくらなきゃいけない」って必死だったから。確かに、ヒヤリとしたいという思いが早い段階であったなら作戦を練ったかもしれないね。
「踊りに行くぜ‼」Ⅱ Bプログラムについて
飯名:受け入れる側が「佐成さんをよく知らない」って云うのは問題。おもしろいネタを持っている人を引き出せなかった、けしかけられなかった。それによってどういう人(Bプロの出演者)を集めたらいいのかとか、その出演者に対して主催者側がどうやって口を出すべきか、とか。そういうことが分からないまま企画が進んでしまった。せっかく事前に面接して選んだわけだから、受け入れる側がアーティストのことをもっとよく知らないといけない。
佐成:北本さんも初めてだし、佐東さんはここに来て初めて話しますもんね。水野さんも鳥の劇場で挨拶したぐらいだし。
飯名:その状態のわりには、作品にはなったなと思うんですけども、受け入れる側がもっとアーティストのことを知ってあげていれば、もっと出来たことがあるはずなんです。
北本:具体的にはどういうやりかた?
飯名:僕の場合ですけども、なにしろまず会いに行く。会って、どういう家に住んでて、普段どういう作品をやってて、最近何をやってて、ってことを色々と聞いたりする。事前に仲良くなる。遊びも含めて、この人どうなんだろう?って。
佐成:飯名さんと最初に会ったのは、飯名さんが絡んでいる企画で僕がパフォーマンスしたのがきっかけです。
会場は実際にカフェとしても利用出来るアトリエのような空間で、動きに反応するLEDのオブジェが展示されてて、それらを生かすために、喫茶店というシチュエーションでのパフォーマンスをしました。
それも、その企画の別の作品で出演してた顔見知りの役者さんなど3人に当日レクチャーでの出演をお願いしました。その即興的なパフォーマンスを飯名さんが結構気に入ってくれて、後日、家に来たんですよ。
北本:飯名さんが?
佐成:そう。「この人の行動力、すごい」って思った。
飯名:「踊ってる映像くれないか」って言って、佐成さん家まで行った。フランスとかでメディアとパフォーマンスに関する企画があって、そこで映像を流したんです。佐成さんの「幻想ウイルス」という作品だった。その頃(2004年あたり)、海外で日本のダンスとメディアについて映像で紹介してくれっていう企画がいくつかあったんですよ。日本ではメディアとパフォーマンスというのが、クラブカルチャーみたいな感じにもなってて、フランスやドイツで、そういう日本のクラブカルチャーを知りたいっていうオファーがいくつかあった。そこで佐成さんの映像を混ぜて紹介したりしたんです。
北本:すごいな。
飯名:佐成さんと会ったときに感じたのは、「佐成さんは、田中泯という人を信頼している」ということが分かった。舞台で田中泯さんを見るときは、「佐成さんが尊敬している人だ」っていう風に見たりもする。
そうすると、佐成さんがやりたいことがどんなことかって考えられるようになる。そういう話を情報として、休みの時間とかに、主催者から出演者にちょっと伝えたりする。振付家本人から出演者に「自分はこういう人だ」って細かくは言わないでしょ。
北本:クリエイションが始まる前にアーティストとの関係をつくれているか、と言われると、事務連絡程度になってしまっていますね。
飯名:どのタイプか?この人どっち系?みたいなことは知っておきたいですよね。
北本:そうなんですけどね。まず、そこで関係つくれてないと、話ができるまでに時間も掛かる。
飯名:作品の中身の審査というよりは、「この人どういう人なのか」ってことは大事な気がするんですよ。作品評価だけじゃなく、どういうスタンスの人なのかを知りたいわけです。
佐成:選考会で、一人30分の時間を与えられますよね。あれだけいろんな人を見てきたら、それでなんとなくタイプって見えてくるものですか?
佐東:少ない情報なら少ない情報なりに、タイプは見えてくる。ただそれが本当に合っているかはわからないけど。
北本:その判断というか見え方が、例えば、選考会では作品もしくはアーティストを選ぶわけだけど、それはそこに居る人ができるかどうかみたいなことの判断で、「こういう人だけど、 今後こうすればこうなるよね」みたいな見方はしていないですよね。その違いは大きくあるかも、と思います。
飯名:出来上がった作品についてどうのこうの、ということではなく、もっと早い段階で「あなただったら、こういうことしたら絶対面白いよ」ってことがありますよね。主催者側の見方として。観客もそれを求めていたりするわけです。
アーティスト本人は頑なに「イヤ、そういうことは出来ません」って思ってたりするけども、実は「あなたはこういう踊りをした方が絶対かっこいい」って雑談できるところまで入り込めると、信頼関係も違ってくると思うんですよ。今はまだ、主催者とアーティストの関係がそこに到達していない。
佐東:まだそこまで入り込めてないね。
飯名:主催者は出来上がった作品を見て「いや~」とか「う~」って頭かかえたりする。アーティスト側からすると、主催者を信頼できなくなってしまいます。面接して、審査して、合格して、その流れで出来上がってきたものを主催者に見せたときに「そういうのは求めてません」って顔されたとき、「じゃあ何が欲しいんだ?」ってなる。
でも、「踊2」は「こういうのを作ってください」っていうプロジェクトじゃないから、すごく関係は難しいんだけど、もうちょっとそのアーティストがよく見えるプロデュースっていうのをしてあげられるといいと思います。主催者にとってよくわからないタイプの人たちが来たとき、それをコンテンポラリーとして成立させるためには、どうしたらよいか?本人はどうしたいのか?っていうことは、お互い話をしないといけないし、信頼関係を作らないと出て来ないですよね。
北本:そうなんですよね。だから、「踊2」でいうと、エントリーしてくる人は、すでに知っている人もいれば、全く知らない人もいる。すでに知っている人が通ったときには、既に知っているところから関係を始めるから、知らない人と始めるのとは全然違うんですよね。その違いは確かにあるし、飯名さんの言う信頼関係とは、それもまた違うと思うし。
飯名:既に知っているアーティストに対して、主催者側から「あなたのこういうのが見たい」っていうのも面白い提案だと思うんですよ。本人たちは気付かないから。ずっとそのスタイルでやってきているけど、「一回違ったことやってるの観たいなあ」ってこともあったりするじゃないですか。
北本:その投げかけ方が難しいと思うんですけど、でも、そういうことですよね。
飯名:別に、「そういうのを作れ」って言っているんじゃなくて、「そういうのもアリなんじゃない?」っていうようなね。
以前、福岡のBプロに出たタケヤアケミさんもそういう対話を求めているように感じました。意見を求めて日本に来て、「作品について、とやかく言ってくれ」って言うんです。でも、「それを聞くか聞かないかは私の判断よ、でもどんどん何か言ってくれ」ってタイプのアーティストでした。意見を聞いているようで聞いてないこともある。でも、何か刺激が欲しいということなんでしょう。「クリティカル・レスポンス」みたいなシステム的なことを仕掛けるのではなく、通常の対話でいいと思うんです。
佐東:ようやく佐成さんと対話ができたから、よかった。
飯名: 本番、終わってしまったけど・・・
一同:(笑)