プロセス
王余魚沢倶楽部(青森)
Aプログラムの参加アーティストは、自分の居住区でリハーサルを進めていきますが、一時期を居住区以外の地域に滞在し、集中した作品制作に取り組むための滞在制作〔ダンス・イン・レジデンス〕を必須で行うことにしています。そのための作品制作と生活環境を適した場所を提供・コーディネートします。
自分の生活圏で仕事や日常の雑事と並行して、1日の数時間を作品制作に充てるという形態では、日常と作品制作を行き来することになり、制作に集中するには限界があります。滞在制作のよさは、メンバー間の突っ込んだ作品へのディスカッションや、リハーサルを中心に据えた生活を通して、制作の密度をあげていくことです。
リハーサル以外の時間をメンバー間で共有し、コミュニケーションが深まること、メンバーと共に四六時中作品制作に向かい合うことで、それまで見えてこなかった作品の新たな発想やテーマ、観客に通用する見せ方を見直すことに繋がり、自分たちのつくろうとしていることを常に自問自答し、見直す機会となるでしょう。
音楽、舞台美術、ダンス、映像など各ジャンルのアーティストが、自分のクリエイションへのフォーカスを深めるのと同時に、作品全体の演出を意識した視点をもてるようになります。
この期間中に途中経過発表としての試演会を行い、外からのフィードバックをもらうことも重要な点です。巡回公演前の必要な通過点となるでしょう。
振付家・演出家が、地域の出演者と作品をつくる。その土地の歴史、文化、習慣、方言、名産物、祭事などあらゆる地域文化と接しながら、人と向き合いながら、その地にレジデンスし、ダンス作品制作に取り組む。
作者は、制作する地域で初めて出演者と会ってから作品内容を考えるのではなく、作品構想をあらかじめ準備し、その作品に必要な出演者を選考するという方法。すなわち、出演者に合わせて作品をつくるのではなく、その作品にとって必要なダンス・パフォーマンスを出演者に演じてもらうというもの。 料理にたとえるなら、作者は調理する前にメニューを決めてかかり、出演者にはそれぞれ必要な材料になってもらうということ。しかし、何風味のどんなテイストにするのかは、料理人と材料が出会ってから、一番いい味つけを探ることが必要だ。Bプログラムでも、作家はダンス作品をつくる自分の方法論を探すことが必須となる。ダンスアーティストにとって、地域の出演者にとって、ハードルが高く、しかしその分、質の高い作品になることを期待している。
ダンス・イン・レジデンスの途中、あるいは最終日に、開催主催者・地域の観客・地元のアーティスト・関係者などを招き、途中経過の作品発表や作品プレゼンテーションを行います。作家や参加アーティストは、観客からのフィードバックをもらうことで、作品がその時点でどこまで客席に届いているか、どのように受けとめられたのか、など率直な反応を受けとることができます。この反応を受け、1月からの巡回公演に向けて、さらに作品をブラッシュアップさせていきます。過去には、観客の感想を聞き、自分の伝えたいことが伝わっていない、と判断した場合は全ての作品の方向を変更し、作品を根本からつくりなおすというケースもありました。公演の前にこのような発表の機会を持つことは、とても重要なことです。
また、“創造し発信する”という本来の劇場が持つ役割を地域にアピールし、劇場やスペースが作品制作にどのように関わっているのか、地域の方に作品制作に興味を持ってもらう良い機会となるでしょう。