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神戸公演レポート  文:田中幸恵
2016.03.04

今年で二年目となる「踊りに行くぜ!!」Ⅱvol.6神戸公演では、Aプログラムからは世界を巡回している梅田宏明による新作、NYを拠点に活躍の山崎広太による新作、地元作品のCプログラムからは上野愛実作品、中間アヤカ作品を選出しました。

豪華なAプログラムの梅田宏明作品と山崎広太作品は、関西では滅多に見ることの出来ないということもあり、ダンスボックスにとって待望の2つの新作でした。


(写真:金サジ)

梅田氏による「Movement Research -Phase」の初見は、松山公演でした。正直戸惑ってしまいました。音と光は匠に交差しカッコ良すぎるほどの梅田ワールドを完成しつつある。しかし、ダンサーたちの身体はどのようなポジションに置かれているのか分からなかった。冒頭の5分は、ゾクゾクし前のめりになる。ただ、時間が経つにつれて先が読めてしまい、間延びしているようにも感じる。うーん、でももの凄く気になる。「ダメだ!」ではなく、「分からない」。この「分からない」が何かチャンスのように思えて、JCDNの水野さんや佐東さん、他のスタッフ、そして、梅田さんご本人に話を聞ききまくりました。「ふむふむふーん、そうなんですね、そうなのか」私の観る、受け止めようとするポイントがどうも梅田氏の作品には追いついていないらしいのです。ならば、単純に観る位置を変えてみようと、ゲネプロは後方から、初日は前列から、そして、最終日はオペレーションブースの2階から見下ろすように観ました。回数を重ねる度、作品にどんどん引き込まれ、面白いと感じている身体に気付きました。相変わらず私の「分からない」は残ったままですが、新たな疑問と言う名の興味が沸いてくることを実感しました。まるで自分が試されているような作品でした。見下ろし鑑賞が断然おススメです。


(写真:金サジ)

山崎氏の「暗黒計画1〜足の甲を乾いている光にさらす〜」は、城崎でのレジデンスの時の映像を見て、まず、ダンサーたちに震えました。更に合間に入る山崎氏のお喋り(解説)が、何とも言えず魅力的!すごいのが神戸にやって来るぞ。山崎チームの来神を首を長くして待っていました。札幌公演の後、アメリカツアーで、急遽出演出来なくなったダンサーの代わりに山崎さん本人が舞台に立たれていた名残なのか、神戸での通しで山崎さんはずっと踊り続けていました。すでに強度のある3名のダンサー+山崎氏の踊り。劇場の空気がどんどん芳醇して行く様に「あ〜贅沢だな〜」と至福の時間を味わうことができました。土方巽の暗黒を読み直す作品。まさか闇がこんなにも希望に満ちて、暗黒が明るいとは思いませんでした。暗黒の未来は明るい!山崎さんのテキストは、闇とも身体とも相性がいい。だからすっと入って来るのです。今の時代、この神戸の地で「暗黒計画1」は観客の一人一人にどのように響いたのでしょうか。観ないと絶対に損!とはっきりと言える傑作です。

Aプログラム勢揃いの東京公演はどうぞお見逃しなく!!

神戸Cプログラムは、「国内ダンス留学@神戸」修了生5名の応募者の中から1作品の予定でしたが、選ぶことが出来ないというよりも、どちらかを落とすことが出来ず、「談話室」「月月火水木金金」の2作品を選出しました。
神戸Cプログラムは、とても恵まれていて同県内にある城崎国際アートセンターでのレジデンスもさせていただくことが出来ました。
さらに、12月のワークインプログレスやマレーシアからのdBレジデンスアーティストのリム・ハオニエン氏による公開ドラマトゥルグなど、様々な機会にたくさんの助言をいただけたのも、「踊りに行くぜ!!」ならではの大特典でした。


(写真:岩本順平)

城崎で寝食を共にすることから始まった中間アヤカのクリエーション、改め、「作業」は、“振付家”“ダンサー”“ドラマトゥルグ”と言う関係を持たずともダンス作品は生まれるのではないか?生んでみようではないか!と言う試みでした。中間がアルバイトしていた「老舗の瓦せんべい工場」の構造にそっくり置き換えて作業(クリエーション)が進められ、それぞれの役割も“工場長”“工員”“研究員”と呼び、ダンスからは距離を置いた地点のスタートでした。果たしてこの構造がどのような作品を生むのか?そもそも成立するのか?私自身、全く予測がつきませんでしたが、「ひょっとしたらこれまでのコンテンポラリーダンス史をひっくり返す程のすごいものが生まれるのかもしれない。え!生まれたらどうしよう?いや、出て来て欲しいな〜」とそんな期待を抱きながら彼等の作業を見守っていました。


(写真:岩本順平)

一方、自作自演のソロ作品に初挑戦の上野愛実は、贅沢にも二人の演出助手(定行夏海、中根千枝)をつけ相談相手がそばにいる環境の中でクリエーションがスタートしました。上野作品「談話室」は、昨年11月に「コンテンポラリーダンス@西日本版」の12分バージョンで当劇場にて上演しました。ミニマムな動きが特徴の彼女の作品は、淡々と時間が過ぎて行く、しかしこれだけでは足らない。とても内向的に見えてしまう。発端は小さな出来事や個人的で素朴な疑問であれ、それがダンサーの身体を介して世界に繋がって行かなければならない。上野の意図する世界観がなかなか思うように形に出てこないという反省点を踏まえ、2月末の本番に向けて再び創作活動が始まりました。

劇場入りしてからもJCDNスタッフの方々やテクニカルスタッフ、そして、Aプログラムの強度ある2作品から追い風をもらい引っ張り上げられるようにCプログラムの2作品も本番に向けて最後にグングンと力をつけて行きました。
ヨチヨチ歩きの若い2人の作家は、公演後のフィードバックにてこれほどまでに多くの人が自分たちを支えてくれ、大先輩から助言をいただける贅沢な環境に改めて感謝していると言っていました。中間アヤカは、この先も作家の視点も兼ね備えたダンサーとして、着実に人気とキャリアを積んで行って欲しい。上野愛実は、今年で最後となる「トヨタコレオグラフィーアワード」のファイナリストに選ばれ、更に上のステージへと挑みます。山崎広太さんや梅田宏明さんのように世界を股にかけ活躍をできる強いアーティストを目指す彼女達の今後に大いに期待したいと思います。


(写真:金サジ)

昨年に引き続き、この「踊りに行くぜ!!」Ⅱでは、たくさんのスタッフが集まり劇場やロビーは、いつもに増して賑やかになります。「まるでお祭りのようだ!」と楽しんでいたのは私だけかもしれません。心配していた集客も伸び、両日とも満席で本番を迎えることが出来ました。最後まで司会進行が決まらなかったアフタートークもJCDNとダンスボックスのWボス(佐東さん、大谷)司会進行で重厚だけれどもたくさんのお客様にお付き合いいただき和んだ時間となりました。つたなく頼りない制作を支え一緒になって本番、アフタートーク、そして打ち上げまで運んでくださったスタッフ、出演者の方々に改めて心より感謝申し上げます!

NPO法人DANCE BOX 田中幸恵