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余越保子作品「B」について 文:海野貴彦
2016.02.20


photo:一楽-ichigaku-

まずここ愛媛県の松山でおこなわれた振付家、余越保子氏によるダンス作品に触れる前に、少々強引ですが、松山における俳句について説明をしなければなりません。
松山では俳句が今でも根強く大切にされています。どのような程度かと申しますと誰もが歩きながらフト一句思い付き、用紙に記入すれば、各所に“俳句ポスト”なるものがあり自分の作った句を投函できる仕組みがあります。だれもが瞬時に俳人になれるシステムによって投函された作品をまちゆく人に「あの句はどこに届くのですか?」と質問をすればだいたい「わからん」と答えが返ってきます。そのぐらいおおらかな松山人にとっても熱くなる季節、それは夏に高校球児が甲子園で野球の日本一を決めている同時期に、高校生俳人によって“俳句甲子園”なる熱い夏の一幕がおこなわれている季節です。

その夏に優勝した一句は金色のレリーフとなって、年度ごと大街道商店街という所に張り出されており、これまでおこなわれた俳句甲子園の回数分、今も読むことが出来ます。その句を読んでみます。すると、はあ?なんだって??と、大キョトンとなり全く何のことを言っているのかさっぱり分からない句が大半を占めています。読めはするけれど何のことを詠っているのか理解するのがとても難しいのです。ですが熱い熱い夏の優勝を飾った一句、その句は言葉による激戦を勝ち上がり最後の決勝戦で詠んだダイナミックな過程と、重厚でドラマチックな出来事があり優勝に至ったに違いありません。
それはきっとその句が生まれた瞬間に立ち会えて体感した者にしか読み解けないドラマがあるのでしょう。

そこで、僕なりに良い句というものの構造を勝手に解釈してみます。それは例えばこうです。
宇宙はるか遠く冥王星の裏側の事を書いているのですが、実はちゃんと読み解けば、ふとした日常の些細な事についてポツリと表現している。こういった表現の辿り着いた先との距離感が遠く、尚且つ表現された事象が妙に納得できる句が「おおー。」と唸る良い句、と乱暴な解釈ですが、そうなるでしょうか。この距離の幅広さが句という表現にはとても重要な味わい、だと思います。
(もし歴代の優勝句にご興味のおありの方はこちらから)
http://www.haikukoushien.com/history/history_data.html
(ん~、すんげぇ句)
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photo:千田優太

さて長い前置きになりましたが、余越作品について。
余越作品には“現代”という時として重苦しい題材が根底に引かれているように感じます。それはテーマを決めつけて作っていく作業というより、今やるべきことをやった結果そうなった、という方が正しい気がします。そしてその重苦しい題材については直接提示されることはなく、この度ダンサーに選出された松山の中、高、大学生の肉体によって、極めて軽やかに場面が展開されていきます。その様子はまるで現代の重苦しい空気を無視するような、いや感じてはいるのだがつとめて明るく振る舞っているかの如く、現実世界の問題を跳ね除けるように舞台で躍動しています。
それは滑稽だったり間抜けに見えるぐらいに。
的確な単語が無いので“滑稽”“間抜け”といった過度な単語を引き算し弱めて稀釈しなくてはなりません。眼前の場面は滑稽に見えるギリギリの所、それ以上突っ込めば間抜けに見えるギリギリの寸止めの状態で次から次へと舞台上で展開されます。そこが今作の絶妙な妙技だと感じます。下手をしたら“滑稽”“間抜け”に見えるもの、それらそのギリギリの所を演者たちに綱渡りをさせ、必死でやっている人間を眼前にすると、観る側はカッコイイと感じ、やがて気が付けば涙腺が緩むという訳のわからない状態が訪れるのです。
それはまるで生きていくってこういう事だよ、なと。


photo:一楽-ichigaku-

舞台の上でそのような状態がまるで丁寧に重ねられたミルフィーユのようにレイヤー状に重ねられており、ドローイング(鉛筆で描かれた絵画)でいえば、描いては消して何度も繰り返され、幾層にも重なる鉛筆の筆致が心地よく見えるような作品のようになっており、その滑稽でもがいている現象地点から、直接突きつけた訳では無い遥か彼方の地点の現実世界までの距離を測ると、俳句とは真逆の構成ですが、その距離感になんて素晴らしい表現なのだろうと感じます。

この度の作品を観て分かることがあります。
余越保子作品、愛おしくて愛おしくてたまりません。
これは体感した者だけの特権です。

ありがとうございました。


(左:余越保子 右:海野貴彦)

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海野貴彦(かいのたかひこ)プロフィール
東京都生まれ。画家。
2012年愛媛県松山市に移住。現在は松山市の三津浜という海沿いのまちから日本を盛り上げるべく、全国各地を演歌歌手さながらに渡り歩き、作品発表を続けまちおこしならぬ「ひとおこし」に全身全霊を捧げる。海野がいる所が、いま一番面白い所とされている。得意なスタイルは「そこでしか出来ない、そこの最大公約数で制作する」こと。主な使用画材は「絵の具」そして「人」。絵の具でキャンバスにえがき、人でまちをえがく。まちの彩りになる事も含めて「画家」と名乗る。
表現方法は、絵画制作、ライブパフォーマンス、プロジェクト制作、デザイン、講演、執筆、TV・CM出演など多岐にわたる。

2015年の主な活動
・展覧会、「激情」@island 東京、「どこぞ、だれぞ、なんぞ、」@愛媛県三津浜、「Paio2」@愛媛県道後。
・滞在制作、「椎名町サロン」@東京都豊島区、混浴温泉世界「わくわく混浴デパートメント」@大分県別府市、吹上ワンダーマップ @鹿児島、天文館ワンダーマップ @鹿児島。
・制作、「Say YO?」 -東京を捨て、西予に受け入れられる- @愛媛県卯之町、
「どうごやーと」 @愛媛県道後、「混浴温泉世界・大大大大大フィナーレ」、
・TV出演「新昭和」企業CM、NHK「U29」、他新聞・雑誌取材、掲載など多数。


photo:一楽-ichigaku-