photo:中島伸二 「終演後のロビー」

レポート記:JCDN千代苑子
1月26日(日)、鳥取公演がおこなわれました。
週末にかけて寒さは和らいだものの、あいにくの雨。こんな天気じゃ足場も悪いですねというと、鳥の劇場の方々は「これは公演日和なんですよ」と口を揃えていいます。どういうことだろうと考えたのも束の間、受付が開始すると当日券を求めて次々とお客さんがやって来ました。なるほど、雨の日だから劇場でゆっくり公演を見るんですね!
ホワイエには静かに雨音を聞きながら地元のまる達コーヒーさんのコーヒーを楽しみながら上演を待つお客さんがぞくぞくと増えていきます。鳥の劇場の方々も、雨の中車で来るお客さんを誘導してくださったり、最寄り駅と劇場のあいだを何度も送迎車で往復してくださったり、役者さんも含めてスタッフ総出で公演を支えていただきました。

たくさんの方のご協力のもと、鳥取公演は無事に終演。中島伸二さん撮影の写真とともに、4作品を上演順に振り返りたいと思います。

トップバッターは菅原さちゑ作品『MESSY』。開演してまもなくドラム音が響きわたり、会場の温度が一気に上がります。vol.2のAプログラムで制作されたこの作品は昨年札幌で再演し、今回の鳥取公演で「踊りに行くぜ!!」Ⅱの巡回地を制覇しました。初演から3年。作家である菅原さんにも、出演者の2人にも、心身ともにさまざまな変化があったと思います。そのことが『MESSY』という作品にどのような変化を与えているのか。何を削ぎ、何を足していくのか。セカンド初の3年連続上演を終えた菅原さんの表情は、すがすがしさというよりも新たな目標を見据えているようで印象的でした。

「MESSY」菅原さちゑ作品    photo:中島伸二 

2作品目は、今年のAプログラムより黒沢美香作品『渚の風<聞こえる編>』。この作品に出演するのは「ミカヅキ会議」という大学教授3人組です。プロのダンサーではないので、本番にあわせた身体的なコントロールはできません。だからこそ舞台上でおきていることは本当にその時・その場でおきていることであり1つ1つのその瞬間がリアリティに溢れるものでした。そんな3人の身体の間に生まれているのは紛れもなくダンスであり、「ダンスはダンサーのためだけのものではない」という黒沢さんの言葉を示すような作品です。各巡回地の舞台の上で、どのようなダンスが生まれるのか。予測不能な楽しみに、一層期待が募ります。

「渚の風<聞こえる編>」    photo:中島伸二 

休憩を挟み、3作目に上演したのは地元作品『クウネルダンス』。毎年9月に鳥の劇場が開催している“鳥の演劇祭”でつくられた作品です。vol.2のAプログラムで鳥取に滞在しダンス・イン・レジデンスをおこなった青木尚哉さんが構成・演出として協力し、鳥取市鹿野町の地元の方々を中心に構成されたコミュニティダンスグループ・とりっとダンスが初めて作・振付を手がけ、2012年に初演をおこないました。その後メンバーの入れ替わりもある中、自分たちで調整を重ねながらつくり上げてきた作品。大きな舞台でAプログラム3作品と並んでも引けをとらないくらい、とりっとダンスの独特のパワーで観客を惹きつけていました。

「クウネルダンス」 とりっとダンス作品  photo:中島伸二 

ラストを飾ったのは、余越保子作品『ZERO ONE』。長年欧州でコンテンポラリーダンサーとしてのキャリアを積んできた福岡さわ実さんと、日本で舞踏をベースにさまざまな作品に出演している福岡まな実さんの双子姉妹が舞台上に現れます。身体経験の違いは踊りだすと明らかで、双子であることを時折忘れてしまうほど。この2人が共演するのは実はこの作品が初めてとのことで注目度が高いのですが、ニューヨークで活躍する余越さんが日本で制作する初めての作品なので、さらに必見です。2人のダンスと映像作品の『Hangman Takuzo』の世界観が融合して、まさに「儚い瞬間を丁寧に紡いだ」作品となっていました。次は仙台公演にて上演されます。

「ZERO ONE 」余越保子作品   photo:中島伸二 

いろいろな意味で幅広い4作品を一挙に上演した鳥取公演でしたが、舞台上の空間にあらわれるその瞬間(ダンス)に立ち会うことの贅沢さをあらためて感じた公演でした。既にAプログラムの2作品は次の上演地にむけて準備を進めています。いずれの作品も劇場という空間で、その場に居合わせた人にしか共有できない作品です。ぜひ、1人でも多くの方に見ていただければと思います。
次の開催地は、仙台です。2/9公演です。