NEWS
NEWS

参加作品・アーティスト選出方法

大橋可也作品インタビュー

福岡でBプログラム「フラジャイル・ワールド」の作品制作を行なう大橋可也さんと、音楽を担当される松永誠剛さんに出演者選考オーディションを終えてインタビューを行いました。大橋さんと松永さんの出会い、今回の作品制作についてお話しを伺いました。

日時:2012年10月16日
場所:福岡市文化芸術振興財団会議室
テープ起こし:二宮聡

大:大橋 可也 さん
松:松永 誠剛 さん

インタヴュアー  
二:二宮 聡(NPO法人コデックス)
水:水野立子(JCDN/ディレクター)

大橋さんと松永さんの出会い

— 二:まず大橋さんに、今回音楽を担当される松永さんと出会った経緯をお聞きしたいと思います。

大:僕が2008年の5月に福岡のぽんプラザホールという場所で公演を行ったときに、誠剛さんにその公演を観にきてもらっていて、それ以来交流があるって感じですね。

— 二:そのとき、松永さんは大橋さんの作品を初めてご覧になられたのですか?

松:そうですね。大橋さんとは共通の知り合いの新聞記者さんがいて。自分が海外から帰ってきた直後だったので、海外での活動の話をその記者さんにしているときに、チケット代について面白い試みをされている方がいる、と教えられて。それが最初のキッカケになりました。

大:0円チケット、2,500円チケット、10,000円チケットっていうのですね。
※大橋可也&ダンサーズのチケット設定について(2008年2月「明晰の鎖」東京公演)。
http://dancehardcore.com/archives/000271.shtml
http://dancehardcore.com/archives/000294.shtml

松:それをそのままパクらせていただいて(笑)、というか自分のコンサートでも何度かそのシステムをとらせてもらって。その許可を得るために、ご挨拶というか。それで少しお話をする様になっていって、というかんじですね。

— 二:今回がお二人初めてのコラボレーションってことになりますか?

大:以前から「2人で何か出来たら良いね」とは言っていたんですけど、それぞれ活動の拠点も違うし、どうしてもキッカケが掴みづらかったってところがあって。今回ちょうど福岡でやるって話が決まったので、この機会に是非、ということになったんです。

— 二:今まで福岡公演も幾度かされてきていますが、大橋さんの福岡の印象についてお聞かせください。

大:まぁ、「あたたかい」っていうのがありますね。それは一緒にやらせてもらっているっていうのもあると思いますけど。ひとことで言うと「あたたかい」。

— 二:「あたたかい」ですか、九州なので南国気質でちょっとそういうところはあるかもしれないですね。松永さんはあまり福岡では活動はされていないのですか?

松:日本にいる時は古民家を改築したところに住んでいて、ここ数年、そこに自分の知り合いのミュージシャンが来るっていうのがメインの部分になってきています。その時間、演奏は演奏でしているんですけど、普通の演奏家に比べたら演奏の回数は圧倒的に少ないですね。プロデュースや、海外のミュージシャンのコンサートの手伝いなど、プロジェクトを年に3つ、4つやっていて、なかなか自分の演奏をレギュラーベースでやるってことは難しくて。
もちろん、知り合いのお店に気軽に演奏しに行くとか、遊びに行って演奏してくるってことはありますけど。いざコンサートとなると、自分の場合は曲を描く作業が一番好きなことでもあるし、もちろん楽器の演奏も好きなのですけど、あまりジャズのスタンダードを一緒にやっていても、スタンダードの演奏をするにしても「この人とやりたい」っていう人と今は正直で会えていない、っていうのが現状ですね。
もし出会えているのであれば、喜んで福岡でも活動を増やしていきたいなと思っています。

— 二:昨日のオーディションでの参加者にはどのような印象を受けられましたか?

大:そんなに際立って何かを感じるってのは無かったですね。ただ幅広い年齢の方に来て頂いて、そういう人たちと体を動かすっていう機会はあまり無いので。どうしても、ワークショップなどをやるにしても、コアになってくる人たちっていうのは同じような集団に属している人たちになっていっちゃうから。そういう意味では楽しい出会いだったなぁ、と思います。

— 二:松永さんもオーディションをご覧になっていらっしゃいましたがなにか印象深かったことってありますか?

松:なかなか「音楽」っていう立場でダンスの世界に関わらせて頂くのは少なくて、今回みたいに、オーディションの段階から関わらせて頂くのははじめてで。いろんなことが頭の中に浮かんでは消え浮かんでは消え、という感じだったんですけど。やっぱり体の動きの面白さっていうのを、段々、1時間くらい過ぎたあたりから感じはじめて。「あの体の動きに合わせたらどうなるんだろう?」っていうのが具体的に浮かんできたりしました。すごく良い経験をさせて頂いて、面白かったですね。

— 二:音楽的なインスピレーションが湧いてきますか?

松:湧いては来るんですけどあまり残るものではないですね(笑)。それをどうしようかなっていう。それを残るものにしたいなぁというか、ただ流れて行ってしまうものではなくて留まるものにしなければいけないので。それを、時間をかけながらやっていきたいなとおもっています。

 

 

なぜBプログラムをやりたかったか?

— 二:Bプログラムというものについて、考えているところをお聞きしたいんですけど。

大:今回オーディションをやって、初めて出会う人たちとつくるわけですけれど、そういう人たちとまず出会って、一からつくっていく、それはアーティストにとっても一つの試練でもあるし、スキルアップの場にもなるかもしれないと思っています。
作品としても今まで同じメンバーでやってきたものとは違うものが生まれる可能性はあるので、そこも面白いところかなと。ただその一方で、今までやっていた作品より果たして良いものが出来るのか、っていうのは見えないですよね、僕自身にも。だから、完成した時点で「よかったな」って言える様にしたいな、という思いですね。今までカンパニーでやってきたものと遜色ないものを、というよりは、もっと違う新しいチャレンジをやれたらと思います。

— 二:特に福岡でやるにあたって、東京とは違うことを考えられていたりしますか?

大:まだ滞在してつくっていないので実感としては無いですけど、どちらかというと場所性というより、つくるプロセスが異なるというところをいま考えていますね。東京であれば僕たちは基本毎週土日に稽古をして、数ヶ月かけて作品をつくっていく形ですけど、今回はまとめてクリエイションの期間があって、そこでみんなで一緒につくっていく。つまりクリエイションに全部フォーカスがあたるわけだから、そう言った意味では今までつくってきたものとは違うのかなと。「福岡」という場所については、まだ自分の中では実感が出ていない。ここに滞在していく中で、そこの空気感だとかって言うのが作品に反映できれば良いなと思います。

 

 

「生きづらさ」について

— 二:今回の作品の出演者を募集するにあたって、大橋さんが書かれた文章に「生きづらさ」って言う言葉が出てきます。また、震災や原発のこともちらっと触れられていますが、「生きづらさ」と言う観点で、震災や原発のあとに、その「生きづらさ」を顕著に感じられたエピソードはありますか?

大:その前から生きづらいは生きづらいですね。特に苦労しているとかって訳ではなくて、違和感があるんですよ。それは皆さんそれぞれだとは思うんですけど、今、というかこの場でもそうかもしれませんけど、会社に行ったり、学校に行ったりだとか、やっていることに違和感を持って生きてきたってことですね。
そこに『立ち向かう』という表現になっていますけど、そのために自分にとっての居場所だったり自分にとっての現実だったりを捉え直す、っていう意味で作品つくりをしているんだと思うんです。
漠然とした表現かも知れませんが、違和感っていうのはなんで生まれてくるんだろう、っていうのは少し解らないところであって、それを解明するっていうか、解明しなくても良いんですけど、そこを辿っていくような作業かなと思ってます。振付けをしていくとか、作品をつくっていくってことが。

— 二:震災や原発事故に対してのアーティストのリアクションなどが取りざたされていますが、その点については?

大:震災もそうですけど、より生きづらさが感じられるっていうのは、アートが何かしなくちゃいけない、というか。そういった空気に僕は非常に違和感を感じています。僕自身は元々、原発という存在には疑問を感じていましたし、前々から近しいアーティストに反原発の活動をしている人もいますけど、ただ今の空気には違和感があります。別に彼らの行動に反対している訳では無いですけど、彼らは彼らなりの方法でやっていると思うので。
アートっていうのは高尚な目的を持っているものじゃないと思っているんですよ、僕は。アートというのはもっと、『余白』というか『社会の余白』であって、で逆に余白であるからこそ、存在意義があると思っているんですよね。もっと『余白』としてありたいな、って思っています。

(ここでJCDN水野遅れて参加する)

— 水:どーも。遅れてすみません。昨日のオーディションはお疲れ様でしたー。私も今から、参加させていただきますね。早速ですが松永さんにお聞きします。今回の作品のテーマに共感して松永さんは参加することにしたんですか?

松:実は大橋さんとは作品のことは何も話をしていなくて。でも今話に出ていた震災についての違和感、震災の後のミュージシャン達のリアクションというのを正直僕も同じ様な感想を持っていて。それが『善い』『悪い』ではないんですけれども、何かしなければいけないムーブメントになっていて。かといって、その反原発を大量の音響機材を使っている中で唱うっていうのは凄くシニカルに映ってしまって、違和感が凄くある。僕もあんまり、直接的に震災に対して何か、っていうのは曲に起こしたことはもちろんあるんですけど、それを発信するって段階まではしなかったんですよね、あくまでも自分の消化のためにというか、一つ区切りを付けるために、個人的に行なった創作活動はいくつかあるんですけど。
で、大橋さんにお声をかけて頂いたときに、作品の内容については全く知らずに、「とりあえずスケジュール空いていますか?」という感じで。

大:僕が誠剛さんに声をかけたのは、世界観というか、共通するところですね。全然やってるフィールドが違って、ジャズのフィールドのことは解らないんですけど、世界観として共通するところがあるので、出来るだろうなと。

— 水:どういう世界観が一緒だったんですか?

大:社会に対する違和感だったり、それを変えていこうという考え方とかは以前から知っていて。

— 水:誠剛さんの生い立ちを聞いただけでも、社会への違和感に対して率直に、それを地に生きているような感じですものね。(笑)その点、大橋さんはどうだったんだろう?

大:僕はそこまで行動できなかったんですよ。(笑)ただ、ずっと違和感があって、それをなんとかしたいなとは思っていたんですけど、それが作品を創ることなんだな、と思った訳ですよね、作品を創り出してからそう思える様になったんですけど。

— 水:それで救われてるってこと?

大:自分は救われてますね、それで。

— 水:昨日のオーディションでは、そういう感覚を持っている人かどうか、見分けるのですか?
逆に違和感を持っていない人とはやりたくないなぁ、と思ったり?

大:必ずしも意識的じゃなくても良いと思うんですよね。ただ違和感は誰でも持っているはずなんですよ、逆にそこを表に出してない、意識化してない人は違和感を押さえこんでいるっていう面が強いと思うので、そこを掘り出していくっていうところ、そこが面白いところになっていくと思うんですけど。

— 水:蓋をして生きていけるならその方が楽だ、って見方もあると思うんです。でも、それをワザワザこじ開けて、っていうのがたとえおせっかいであったとしても、それをやってみたいという欲求がありますか?

大:今回作品に関わってくれる人については、掘り起こさないといけないと思います。それは、そういう思いもあってオーディションに参加したんだと思うし。募集の要綱にも書いてあるんで。

— 水:ということはつまり、違和感を掘り起こして生きていくべきだ、社会に違和感を感じることが沢山あったときに、それにちゃんと異を唱えて自分で抗って生きていかなきゃいけない、っていう感覚ですか?大橋さんは。

大:なにがしかのその人なりの解決策というか、終わりではないんだけれど、そういうステップっていうのは必要だと思うんですよね。今回の作品がそのキッカケになってくれればとも思います。出る人もそうだし、観る人にとっても。そこで何か「こういうことなのかな」と、ちょっとだけ今まで歩いてきた道と違う道に踏み出してくれればいいな、と思います。

— 水:ほほう。そういう生き方を選んだお二人としてはどうなのですか?今の心境は。(笑)

松:とんでもなく幸せですね。(笑)もちろん「あのときの選択は正しかったんだろうか?」と思うことはあります。というか、想像してみるというか。違う選択をしていたら自分はどういう人に出会ってたのか、とか。ここ数日は本当に、音楽の世界で自分の音楽を始めるキッカケになったような人たちとお会いして、一緒に仕事をさせてもらうみたいな機会が増えてきていて。本当に幸せですよね。「愚痴る」部分は無いです。

— 水:誠剛さんにとっては、自分が作品をみて触発されたアーティストと一緒に、共同制作をすることになるわけだから、すごいたのしみですよね。

 

 

今回のオーディションから、クリエイションまでの作品制作について

— 水:大橋さんにズバリお聞きしたいんですけどね。
日頃一緒にやっている身体感覚も共有しているカンパニーメンバー“大橋可也ダンサーズ”では、土日の週二日、大橋さんの身体言語を実現できる体作りを長期に渡って行ってきていますよね。
それを全く経験していない今回の福岡の参加者たちに、大橋さんが日頃考えていることも共有できていない、ましてや共通の身体言語を持っていない彼らと作品をつくっていく訳ですよね。
そのあたりのリスクというか、敢えてそれを選んで、今回はこのBプログラムに応募したっていう一番の目的は何ですか?

大:大きいのは僕にとってもそこがチャレンジだってことだと思うんですよね。知らない人たちと、住んでいる世界も、年齢とかも違って、そういう人たちと作品をつくるってことは、僕自身に取ってのチャレンジであるってところが一番大きい。結果としてまた僕がカンパニーでやっていることもまた別のステップに行くことが出来るんじゃないのかっていう思いはあります。

― 水:特にチャレンジしてみたい動機、目的っていうのはどんなこと?

大:いまカンパニーでやっていることに不満は無いんです。ダンサー達には一緒にやっている関係性において不満は無い。なんですけど、ただそれだけで行き詰まりは感じているところがあって。たとえば、僕の内的なことなんですけど、次の作品を作ろうって時に大きなコンセプトだとかイメージだとかを持てていないって状態がここ一年くらいあって。そこは世の中の空気感と重なるところはあるんですけど、自分の中で閉塞感を感じていて。そういうところを打ち破るキッカケの一つになれば良いなあ、ってのがあります。

— 水:触発を受けるというのは場所も違う、つくるメンバーも違うということから何を受け取るんでしょうか?

大:一定の期間集中して、考えて取り組むってところで、自分のやっていることを考え直したり、「こういう作品を作りたいんだ」というのを考え直したり、ってところもありますね。

— 水:昨日のオーディションをやってみて、率直に手応えはどうでしたか?この人とやれたら面白いなとか、モチベーションが出たとか。

大:やる気にはなっていますね。かなり良いんじゃないですかね。

— 水:オーディションでは自衛隊の訓練の匍匐前進とか舞踏の動きなどを参加者にやってもらっていましたね。あれは大橋さんの持っているメソッドだったと思うのですが、意図としては?

大:はっきりとした課題に対してどう取り組めるか?素直な体を持っているか?素直な心を持っているか?ってことですね。

— 水:年齢層は必ずしも低くはなかったと思うんですけど、その点については?若い子の方が逆に素直ではないともいえなくはないですけど。

大:ダンスばっかりやっている子は素直な人が多いですね。

— 水:昨日の人たちはとっても真面目に取り組んでいましたよね、ビックリするくらい。オーディションだから当然と言えば当然なのですけど。衒いも無く、投げ出して。

大:「投げ出して」って言葉の通り、そこは基本的に大事なところですね。どんな状態であっても投げ出せるっていう姿勢でいるかっていうのが一番大事なところで。そういう点で言うと、昨日のみなさん、投げ出すっていう姿勢であったので、うれしかったし、「お、やれるな」って思ったところですね。

— 水:誠剛さんはダンス作品に初めて関わるモチベーションはどんなところですか?

松:音楽に関してももちろんそうなんですけど、ここ一年は個人的に仕事が忙しくて、次のステップに行きたい訳なんですけど、色んな人に出会えば出会うだけ。全てのことに対してオープンでありたいっていう思いが強くあって。頂いた機会に関してはベストを尽くしたいし。本屋さんに行って色々興味がある分野の本を漁ったりするんですけど、昨日のオーディションを見ただけで、舞踏に関する本のある書棚に行って、どういうのがあるんだろうとか、他の国のではどうなっているんだろうか、とか。その時点で既に、僕の視点は変わっていて。今までは別のコーナーにしか行かなかったものが、違う世界のものにも興味を持って。自分にとっては舞台とはいっても、ミュージカルなどに、演奏する側として入ってしまうので、なかなかダンスの世界には縁が無かったんですけど。良い機会を頂いて、時間は有るようで無いのですからね。あとは自分の体を作るというか、楽器に対しても、音楽に対しても準備を今からの数ヶ月間でやっていく、自分の頭に浮かんだものをキチッと常に出せる状態に、高めたいなと、今思っていますね。

— 水:そういえば、コントラバスっていう楽器は肉体的な楽器ですよね。構え方から、演奏の仕方から。

大:誠剛さんは体格もいいから、舞台に立って、コントラバス抱えて、そこから音が出れば、圧倒的な存在感が出ますよね。

— 水:ずるいですよね、それは。

大:そこは大きな要素だとは思うんです。ただそれと今回出演するダンサー単体では拮抗できないとは思うんですよね。今回「フラジャイル」っていうタイトルの世界ですけど、誠剛さん含めた「崩れた」世界、質感や重力がねじれていくような世界っていうのを構築していきたいって考えています。

 

 

インナー・メロディー とダンス

— 水:大橋さんは舞踏をやってらして、今は舞踏とは名乗っていないけれど、音楽に対する考え方が変わりました?一番説明し易い点として、舞踏は唯一といって良いのかはわかりませんが、音に合わせないダンスだ、といえると思います。民族舞踊は、バリ舞踊にしても、インド舞踊にしても、ものすごく仔細に音と踊りを合わせる。細かい目の動きや指の動きを精巧にリズム、あるいはメロディに合わせていく。クラシックバレエもしかり。が、舞踏は音楽に合わせないでダンスの間をつくっていく。その認識は、松永さんにもありました?

松:もちろん。ただ音楽も音が無い方が綺麗なんですよね。

— 水:え?もう一度お願いします。「音楽も音が無い方が綺麗」??

松:なんて言うんでしょう。日本語で説明するのが難しいんですけど、タイム感というか、リズムではなくて。

— 水:メロディでもなく?

松:メロディでもないんですけど、「インナー・メロディー」っていうような表現をするんです。たとえばインプロビゼーションしているミュージシャンがいたとして、僕らがそれを聞いて、頭の中からのメロディが聞こえてくるものと、聞こえてこないものが有るんです。即興といっても物理的な即興(音)しか無いハチャメチャな状態とは違って、実際は無音なんですけど、頭の中に明確に聴覚的な音ではないメロディが聞こえてくる演奏家がいるんですね。そのメロディが「インナー・メロディ」って呼ばれていて。

— 水:それを感じ取れるダンサーを目指せ!と、昨日の五人に求めるってことになりますね。

松:それは多分、自分の仕事でもあると思うんですよ。自分が如何にその(インナー)メロディを強く出せるかだと思うんですよね。

— 水:ミュージシャン同士でその音を感じながら即興演奏するってことは沢山やってきていると思うんですけど、それをダンサーに感じ取ってもらうっていう方法論を見つけるってことなのか。

松:感じ取ってもらう、っていうか、もちろん感じてもらえれば一番良いんですけど。自分の楽器自体はコントラバスっていう音楽の世界でもサポートの役割が主で、何かを支えるものなんですよね。自分が前に出て演奏するものではなくて、周りをより良くするためのもの。覆い隠す訳ではなく支えるという。けど、相互が聞き合ってる、聞きすぎちゃってるっていう状態はあんまり良くないなと思うんです。自然と何となく気持ちいい、見たいな。その空気感が何となく穏やかな。

— 水:それをどういう風に、具体的につくっていくか?難しいけど楽しいですよね。ただそこをやるのは大橋さんだから。今の話だと即興のつくり方で、それを作品にしていくってなると、どういう風になるんですかね。

松:今からの作品の段階を見ながらですけど、フォームがある状態の即興性にはなると思うんですね、最低限のフォームがあってあまりにもガチッとフィックスしたものではなくて、思いっきりオープンな即興ではない。そういうのが一つのベースになるかなとは今の段階では思っていますけど。その中で違うことが浮かんできても、体がついていける様にというかフィジカルに、いまからは練習というか普段やってなかったものをやりたいなと。みなさんの動きを見てて、自分がやってない練習っていうのが自分の中であるので、あれが出来たらこれが出来るだとか、その時点で自分に取ってはとても良かったんですけど。年内は自分自身を高めるというか、練習するというか。

 

 

暗さ、影

— 水:大橋さんも松永さんの音楽は聞かれているんでしょう?

大:そうですね。でも、ただ、今回の様な形ではないので。

— 水:ウッドベースがメインになる、表に立つんではないとすると、どういう風になるのかな?いまの時点での構想はあるの?

松:解り易く、表に立てる状態ではないのかなとは思うんですけど、難しいですね。なんか「存在してる」というか「そこにある」っていう状態で。

大:ある意味、「背後」というか、裏を支えるっていう。じゃあ表は何があるかっていうと、僕は無くて良いと思っているんですよ。今回、出演者はいますけど、彼らはみんな影の存在で良いと思っていて。で、観客はそこの「表」というか影の存在から別の世界を想像できる様な作品に、スゴく抽象的なことではあると思うんですけど、なれば良いなとは思っています。表に出るものが、なにも無い作品になるかなと思っています。

— 水:つまりみんな影のところを見ているってことですか?

大:まぁ、影の世界を。

— 水:とてつもなく暗―い感じの作品になるのですか?

大:暗いのは間違いない。影も無くて良いかな。ほぼ見えないっていう。ある程度以上の年齢層の人は見えないとか(笑)。

— 二:暗い暗いとはいっても、チラシには「ステンドグラスの大聖堂」って書いてあって、ハッピーエンドなのかなって思ったりするんですけど。何となく救われる感じを受けるのですが。

大:作品を見て救われる人は救われるとは思いますけど。暗いっていうのはあくまでイメージ的なもので、別にテーマとして暗いという訳ではないと思うんですよね。前向きであるから作品に取り組んでいる訳ですから。

— 水:なるほど。12月からのリハーサルが楽しみです。

— 二:今日は長時間、ありがとうございました。12月8日から20日まで福岡でリハーサルを行い、20日は地元作品と合同で途中経過発表を行う予定です。楽しみにしています。

途中経過発表情報

「踊りに行くぜ!!」セカンドvol.3 途中経過発表・試演会 @福岡
日時:12月20日(木)19:30
場所:パピオビールーム大練習室
参加無料・要予約
予約先: Mail: codex700@d-codex.com
Tel:090-6776-7898(担当:二宮)
Mailでの場合は件名に「踊りに行くぜ福岡試演会予約」と明記下さい。

作品紹介

戻る
pagetop