2016年02月07日
踊りに行くぜ!!神戸公演に向けて、
Cプログラム(地元作品)である、中間アヤカさん、上野愛実さんのクリエイション作品を観て、
リム・ハオニェンと共に、意見交換する会が開催された。
神戸のダンスボックスにて。
TEXT/PHOTO 飯名尚人
リム・ハオニェンは、パフォーマンス作品『ダンスと仕事とお金についてのおもろい話とパフォーマンス What Price Your Dance』のクリエイションと発表のためダンスボックスにてレジデンス中のアーティストで、ドラマトゥルクとして、アジア各国の新鋭作家たちの作品に参加している。
まず、ハオニェンのドラマトゥルク講座があり、そこで「ドラマトゥルクの役割」が明確に提示された。そのあとで、Cプログラム参加の中間アヤカさんと、上野愛実さんのクリエイション中の作品を実際に観せてもらって、その上でさらにハオニェンがドラマトゥルクをしていく。ドラマトゥルクの役割のひとつに「作家に問いを投げかける」という作業がある、とのこと。「ドラマトゥルクは観客に一番近い存在」とも言ってた。それから「作品のモチーフについて、もっとリサーチすること」「ダンス・テクニックに関する方法論」と「作品に関する方法論」を考えていくべきだ、とも。「この作品には、このムーブメントの方法論で挑む」ということに至り、作品テーマとダンスムーブメントが一体化してくる、というわけだ。
現代において、ダンス作品を作るという作業で、頭と体がバラバラになってしまうことがある。考えなくても体は動いてしまうが、考えて作るということが求められているからだ。作品をグローバル・マーケットに売り出すときに、コンセプトシートとプレゼンテーションが必要になってきた。そのことも理由のひとつかもしれない、が、実はそんなことは作品が出来上がってからでよい。考えて作る、言語化する、というのは、「自分の中のこれだけは譲れないという核を死守する」ということだと僕は思っている。そのために一番有効な方法は、言語化することである、というのは正解だとも思う。それは恊働して作る、という作業で必要なコミュニケーションでもある。共同制作(コラボレーション)というすでにジャンル化されたものではなく、人と恊働することが大切だからだ。(じゃあ何らかの障害で言葉が発せない人は作品を恊働できないのか、というと、決してそうではない。)
ロジカルな作業と、直感的な体による作業とが拮抗し、徐々に乖離してしまうこともある。ロジカルなものだけが残ると頭でっかちで「ダンスじゃなくてもいいじゃん」と周囲から言われてしまう。「コンセプチュアルな作品だよねー」というのは、ある意味で「頭でっかちだなぁ〜」という意訳かもしれない。そんなんだったら素直に直感的な身体をひたすら見せ続けるダンスの方が観客の反応はよいだろう、けれども、思考することなくコンテンポラリーダンスは成り立つだろうか、ともつい考えてしまう。徹底的な抽象を表現するには、徹底的な思考が必要ではないだろうか、とか。そんなこんなで、中間アヤカさんと、上野愛実さんの作品を途中経過バージョンということで鑑賞した。
上野愛実『談話室』
リム・ハオニャンによるドラマトゥルク講座
2つの作品に対して、ハオニェンが質問をしていく。「この作品をどうして作ろうと思ったのか?」「どこから着想を得たのか?」「今、あなたは方法論という言葉を使ったけど、それは、作品についての方法論なのか、ダンスのムーブメントについての方法論なのか?」「どのくらいリサーチをしたか?」「自分の作品テーマと似た他のアーティストの作品をリサーチして、観たり、調べたりしたか?」、、、ハオニェンのドラマトゥルクの手法は「作家に問いを投げかける」である。その質問に、中間アヤカさんと、上野愛実さんが懸命に回答していく。結構厳しく、きちんと指摘をしていくハオニェンの姿をみていると、クリエイションの経験の多さが垣間見える。「それじゃダメだ、もしそのことをやりたいなら、もっとリサーチしないといけない」「そのアプローチはずいぶん昔に行われていて、決してコンテンポラリーの手法とはいえない」とか。かなり具体的な分析をしながら、2人の意見、反論も聞いていく。
こういった厳しい指摘に、背を向けてしまうダンサーも多い。自分のガードを固くすると、オープンな作品にならなくなる。かといって、人に言われたことを、すべて真に受けていては生きていけない。。。結局、何を死守し、何を選択するかは、自分で決めないといけない。こういう作業をコラボレーターやスタッフたちと常にやっていけると、「思考すること」と「ダンスを作ること」が共存できるのだろうなと思う。その議論は、仲間であればあるほど「厳しく」やっていかないといけない。そりゃもちろん議論ばっかりしててもダメだけども、、、
帰り道、ハオニェンが「二人とも、いいダンサーだね」と言ってた。
中間アヤカさんと、上野愛実さんのインタビューはこちら。
https://odori2.jcdn.org/6/?p=1894
<リム・ハオニェン / Lim How Ngean>
インディペンデントのドラマトゥルク、プロデューサー、パフォーマンス作家。20年以上におよぶキャリアを持ち、シンガポールのオン・ケンセンや今は亡きマレーシアの演出家クリシェン・ジットの作品に出演した。コンテンポラリーダンスとの出会いは2006年、リサーチ・フェローとして東京に滞在した時で、以来、シンガポールのダニエル・コック、ジョヴィアン・ング、クィック・スウィー・ブン、ミン・プン、タイのピチェ・クルンチュンといった作家のドラマトゥルクを務めている。また、ベルギー在住の振付家エマニュエル・プオンの率いる、プノンペン(カンボジア)を拠点とするアムリタ・パフォーミングアーツ・グループの常任ドラマトゥルクを務めてもいる。2014年にシンガポール国立大学で博士号を取得。論文ではマレーシア、タイ、カンボジアのコンテンポラリーダンスの振付家それぞれに関するケーススタディを行った。2015年にはアジア・ドラマトゥルク・ネットワーク(ADN)を立ち上げ、2016年4月にシンガポールのセンター42で旗揚げミーティングおよびシンポジウムを開催する。