踊りに行くぜ!!

アーティストインタビュー

2015年2月19日
秋津さやかインタビュー後編 [B リージョナルダンス:神戸]

12月の半ばからBプログラムのクリエイションがダンスボックスで始まりました。
1月のクリエイション最中の夜、新長田の情緒あふれる居酒屋で、ダンスボックスのプログラム・ディレクター横堀ふみ、国内ダンス留学@神戸三期生の制作者コース(現:神大生)藤澤智徳、カメラマン岩本順平の3名が、Bプログラムで作品制作に取り組んでいる秋津さやかさんにインタビューを行いました。プロのダンサーとして求められること、競争社会の中で磨かれるもの、ヨーロッパに拠点をうつし、試行錯誤されたことについて、秋津さんからお話を伺うことができました。これからプロのダンサー・振付家としての道を進む、若手の皆さんに読んでいただきたい記事です。前編と後編にわかれた、長めの記事ですがぜひ一度ご覧ください。

★ 【前編】はこちら http://odori2.jcdn.org/5/?p=1330

1月16日金曜日の夜
新長田の居酒屋「甘えん坊にて」

秋津さやか
滋賀県出身、アムステルダム(オランダ)在住。
現在、スペインへの移住を検討中の振付家、パフォーマー

横堀ふみ
NPO法人DANCE BOX/プログラム・ディレクター
昨年、ベトナム人舞台監督と電撃婚。根が真面目なので、今回は真面目な話担当。

藤澤智徳
NPO法人DANCE BOXが主宰する、国内ダンス留学@神戸3期生制作者コース在籍の神戸大学3回生。1月のショーイング公演では大入りで公演を終え、現在、3月の成果上演に向けて準備中。

岩本順平
NPO法人DANCE BOX広報担当。フリーカメラマンとしても活動。
基本的に女性しか撮らない、撮りたくない。そんなタイプなので、今回はしょーもない話担当。

photo: junpei iwamoto

■第二部 -プロのダンサー・振付家として-

岩本: オランダで活動していて生まれてくる作品と、日本で生まれてくる作品に違いはありますか?

秋津: まず、ダンサーが違いますよね。

岩本: ダンサーの違いとは?

秋津: ダンサーが身体でできること、できないことは、国に関係なく各自の能力の問題だから置いておくとして、リハーサルの中でいうと、「ノリで」とか「楽しくノッテいく」という感じはヨーロッパの方があるかな。私がそういう人を選んで作っていたし、作品にもよるのですが、「これいいね」「あっこんなのでてきた」とか、ノリで出てくるものがある。ヨーロッパでは、私がこれをやって、といっても自分たちなりに楽しめる方法でやる、ということが違うかな。

横堀: 日本人は真面目なんですかね。ダンサーの経験についていうと、特に若い世代は多くの場合、同世代と作品を作ってきたから、共通言語をある程度もっている友達同士のノリで作ってきている気がします。ダンサーとしての力を問われる現場がどれほどあるか、というと未だ少ないと思う。

秋津:ダンスボックスを日本と言っていいか分からないけど、皆さんとても優しくて、「ダンス素敵だからみんなでがんばろう」という感じがある。それって素晴らしいことだと思います。私の数少ないオランダのプロダクションハウスで制作した経験とはすごく違う。作品は彼らの作品でもあるから「どうなってんの?説明しなさい!」というプレッシャーが高くて、嫌でもがんばらなきゃいけない感じ。当時は経験不足だったから上手く対応出来ず、苦しみました。後から思えば大きく成長できた素晴らしいチャンスと挑戦だったと思うけど。今回の様に、リスペクトしていただきながら自由に作品を作ることは初めてで、感無量です。また逆に甘やかされてはいけないとも思います。ここで感じるのはポジティブなプレッシャー。ここで働いている人達は、こんなにダンスを愛してやっているのだから、私も頑張らないと、と思います。

そしてダンサーの話に戻ると、ここにはダンスはこうでなければならない、というセオリーもプレッシャーも無いから自由にできるはずだけど、ヨーロッパと比較するとダンサーの数が少ないから競争も生まれない。ダンサーとしての力を勝負する機会が少ないのかもしれないですね。身体能力、動きを展開させる能力、コンセプトを発展させる能力、そういう力って競争の中でレベルが押し上げられていくもので、私も日本にいた頃はそれをどうやって培えばいいのか分からなかったかも。むしろそういう場所に身を置いてみたくて、ヨーロッパに行ったと思います。もちろん向こうにだって、凄い人も凄くない人もいるんだけど。


横堀: 秋津さんにとって作品をつくる上でおもしろいと感じていることは何ですか?

秋津: 変なこととか、秘密とか、知らなかったことを見つけることです。

横堀: それはダンサーの動きが変、ということではなくて?

秋津: 変なことをやってくれる時もあるけど、タイミングとか意図とか、ダンサー達の関係性も含めてですね。ちなみに変だから全部良い訳ではないですよ。もちろんそこから面白く、アーティスティックに発展させる作業をするし、最終的に作品のコンセプトに合うものを作品の中に選びます。あと、見た人が感じられる要素を見つけることは面白いです。作品を見た人が、この振りはどういう意味なのかと考えるのではなく、見たときに観客の身体や心と繫がるものを作りたいと思っています。こんな気持ちになった、こんな感覚になった、ということが感じられるマテリアル。

岩本: どんな感情を感じさせたいとかありますか?

秋津: 驚かせようとか、悲しませようとかは考えていません。舞台で本当に驚くことがあれば驚くし、すごくスピードのあることが起きると、お客さんはスピードを感じる。舞台上で本当に何かが起きることが大事だと思っています。

ヨーロッパに行ってすぐの頃、めちゃくちゃコンセプチュアルな作品が流行っていて、頑張って見るんだけど、分からなさすぎて悲しくなったことがありました。分かる人にしか分からない作品や、お客さんに頑張って分からせるものじゃなくて、見た人が感じることのできる作品、刺激される作品を作りたいと思って振付を始めました。その時その場所で起こる本当のことを共有したいと思っています。それが舞台でどれぐらい実現できるか、というのが挑戦です。

横堀: 作品って再演とかリハーサルを重ねるうちに、ダンサーにとって新鮮だったものがそうでなくなっていくことも多いと思います。そうなった時はどうしますか。

秋津: 2日公演、3日公演なら、ちょっとだけ変えます。本当にちょっとしたことです。何かしないと、パフォーマンスは生のものだから、ピリッとしないし。まだそのような経験はないけど、20回、30回する公演ができたら、シーンをごそっと変えるようなことをしてみたいです。

横堀: 秋津さんの振付って編集作業みたいですね。

秋津: 映画の影響があるかな。彼が映画監督をしているから、編集している場面をみることがあります。映画の編集って今まで全然知らなかったけど、一つのパートを 短くしただけで他がすべて変わるんです。「A bite」の作品では、その影響をすごくうけていましたね。二つの世界を行ったり来たりするとどうなるだろうか、という映像的な発想でした。

photo: junpei iwamoto

岩本: 日本とヨーロッパのダンサーの違いは?

秋津: 身体の距離と触れ方が違う気がします。なんかヨーロッパだと、もっと身体でガバッといく感じです。この前、「Blind piece」のリハーサルで思いっきり相手を倒しあったり抱き合ったりしたら、みんなちょっとびっくりしたようすでした。

横堀: ヨーロッパのダンサーは全然大丈夫?

秋津: それが普通かな、挨拶もキスだし。日本人は普段から他人と近づかないし、絶対にぶつからない。満員電車ではくっついていても、相手と距離感を保つ。こういう忍者的振舞いってどこで身に付くんでしょうね?カップルが隣同士で座っていても何もしないから、知らない人同士のようにも見えますよね。そういう身体性って、ダンサーの表現にも反映していると思います。

岩本: ヨーロッパの方がダンサーとして生計を立てることができているイメージがあるんですけど、実際はどうでしょうか?

秋津: ヨーロッパも一緒じゃないかな。カンパニーに入ればサラリーマンみたいに働くことになるけど、アムステルダムではみんな自転車で生活しているし、自炊が中心で、ダンスのチケットは値上がりしても日本よりは安いです。生活するお金が少なくて済むから、週3回バイトしたり教えたりすれば暮らせる感じ。あとはダ ンサーとしてどこまでやっていけるかですね。まあ、30歳を過ぎてどうしよかな、っていう一線は日本と一緒かな。みんなヨガとかピラティスを勉強しだして、バランスをとっています。

岩本: 秋津さんは日本で仕事しやすいですか?ヨーロッパの方がダンサーの反応が早いとか、日本よりも環境やダンサーが揃っていて作品を作りやすく感じているように思いました。

秋津: 日本で作品を作るのは今回が初めてだし、作りやすいかどうかはあっちとこっちで比べられない気がします。とにかく今回はたくさんサポートして頂いて、幸せに作業しています。

岩本: ずばり、今回のダンサー3人は仕事しやすいですか?

秋津: やりやすいと思うところは、「こういうのやってみよう」と言えば、とりあえず何でもやってくれること。鵜呑みにするというより、すごく素直です。こ れはとても良いことで、素直だから生まれてくるものがある。本当にピュアダンスという感じ。美しいです。逆に、私も完璧じゃないからやらない方がいいこと を提案してもやってくれている気もします。「えっ、なんでやるの?」とか、「こっちのほうがよくない?」という、分析によって積み重なっていくことは、できるだけ自分で頑張っています。ヨーロッパ人って基本的に分析とディスカッションが好きだから、今回のようなリハーサルをしていても、全然違う方向に進んでいたかもしれない。話しすぎて踊る時間がなくなるのが、だいたいのオチなんだけど。

岩本: 振付家としてダンサーには何をもとめていますか?

秋津: 新しい発見をするために、無防備になってエゴを捨てる、ということ。かっこよくみせたい、とか、こんなんできる、とかはいらない。そういう作品じゃないと思うから。

photo: junpei iwamoto


藤澤: 4年間温めてきた企画を、今この日本でする理由というのはありますか?

秋津:「A bite」の作品の後、地震が起きました。原発の事故もあったし、日本に対するヨーロッパの見方も変わりました。自分自身の日本に対する考え方や、海外にいる日本人アーティストとしてどのように生きていくのか、ということを考え直す機会になったんです。振付を始めてからは、観客の感覚をいろんな風に刺激する作品を作ることに興味を持って食べ物についての作品を作っていました。でも地震のあと、個人的な興味だけで作品をつくる気持ちがなくなって。それだけじゃいけないんじゃないか、と思うようになりました。かといって、ポリティカルな作品を作るタイプでもないし、何を作っていいのか分からなかった。そしてしばらくして、とりあえず日本の好きなものについて作品を作らずにはいられなくなって、相手を尊重する文化と、自分のおばあちゃんをテーマにした作品を作ろうと思いました。これが今年福岡ダンスフリンジフェスティバルで上演した「おばあちゃんの白髪」です。

そして、その次の作品が「Blind piece」。「A bite」の時から目を瞑ることに興味は持っていたけど、その時はそれで作品を作れるとは思っていませんでした。去年の「踊りに行くぜ!!」II に出演していた前野隆司先生の幸せについての本を読んでから、幸せについてよく考えるようになって、アイデアとテーマがマッチして作れる!って思いました。あと、「チョコレート」の時に日本で自分の作品を上演出来るようになったら素敵だなと思っていたので、じゃあ次はこっちでつくってみたいなと考えました。

photo: junpei iwamoto


岩本: 向こうで一緒に仕事をしているダンサーについて話してもらえますか?

秋津: 私の一番仲良い友達がすごい人なんですよ。いろんなプロジェクトで一緒に踊っている人です。あるプロジェクトがぐだぐだで、振付家もお手上げで、ギャラも安いし、ダンサーはひたすら稽古の終わりを待っていました。しかも外で踊るプロジェクトで、本番は雨です。嫌でしょ?向こうの10月ってすごく寒いのに。

とりあえず終わるまでやるべきことをやる、というモチベーションを保つので精一杯。そんな状況の中、私の友達だけが一人ヒーローみたいだった。状況がどうであれ、彼女は自分自身がクリアじゃないと踊ってられない、っていうか、生きてられないっていう人だから、もちろんギャラもコンディションも無視して、「そこまでやる?」って言うぐらいのクオリティーでどんな状況でも踊るんですよね。だから彼女は無茶な仕事を頼まれすぎて困ってるんだけど。

彼女を見ていて、人に頼まれたからやるんじゃないな、と思いました。振付家がしっかり仕事しているとか、プロジェクトが良い悪いじゃなく、そんなことは関係なく、いつでも自分のダンスを発展させるために作業し続けられる人がアーティストだなと思った。それをプロと呼ぶのかは分からないけど。彼女は強いし美しいし、常に成長している。その時に彼女の事を本当に尊敬したし、自分の在り方を反省しました。アーティストとして、いけなかったなと。

岩本: ちょっと違うかもしれないけど、僕も写真を撮るときに自分の出すものに対する責任を取らないといけないな、と思ったことがあります。

秋津: 分かります。どれだけ仕事があるとか、売れてるとか、それは関係のないこと。いつ何処であったとしても、ちょびっとでも踊った自分のダンスは自分がアーティストとして「私はこんな人です、こんなことができます」と世の中に出す事。だから、自分の姿勢があかんかったな、って反省した。

岩本: 写真を撮るときって、誰に見せるためにシャッターを切っているか、ということが具体的に見えます。秋津さんにとって作品を見せたい人って明確にありますか?

秋津: 私はこの作品に限らず、自分の作品を誰に見せたいとか、こういう人にしか分からないって思った事はないですね。見た人が知らない間に引き込まれてしまう様な作品を作るのが夢だから、みんなに見てほしいです。

横堀: それではこのあたりで。ありがとうございました。

新長田の情緒あふれる居酒屋でのインタビューはこれで終わりです。この翌日、秋津さんの作品は二度目のワーク・イン・プログレスを行い、さまざまな意見を受け、3月の公演へ向けて動きつづけています。「Blind piece」は観客にとってどのような作品になるのでしょうか、二度のワーク・イン・プログレスを経て、様々なシーンがダイナミックに変容し、これまで見たことのなかったダンサーの表情も立ち現れ始めています。ダンスボックスらしく、なのか、長田らしく、なのか、見守りながら楽しみに待ちたいと思います。

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