報告するぜ!!
- 2015年3月13日
- ネタバレ注意!! 感想トーク 桑折現作品『To day』編
写真:泉山朗土
飯名:では次は『To day』です。僕は桑折さんのやりたい事、見せたい世界というのが、薄っすらと何となく分かる感じがしてるんです。桑折さんからしたら、全然違うよ、と言われちゃうかもしれないけど。福岡公演で『To day』を観て、ひとつの世界が仕上がってきたかなって感じがした。何かが見えてきた。もちろんまだ慌ただしい所もあって、もっと1つのシーンを丁寧にしつこくゆっくり見せたら良いんじゃないかとか、そういう僕の好みもあるけども。
この作品が持つテーマというのは、桑折さんらしい多義的なテーマだなと思います。すごい現代的なテーマでもある。現代の若者たちが考えている日常生活、それに対する違和感、日常じゃないものへの憧れ、でもそこに踏み込めず、躊躇し、時間が過ぎる。目の前に現れた理想の世界にどんどん自由に入っていけるかというと、そうも簡単には行けない。そういうこうしているうちに、あっちの世界のドアが締まってしまって、暗闇にぽつんと立っている自分がいたりする。この作品は、そんな風景に見えるんです。
水野:飯名さんが桑折さんにインタビューした記事に、日常の中に潜む不在について、がありましたね。
飯名:存在とか不在とか。その行き来みたいなことですね。
水野:思い出しました、それです。抽象的な世界をどう提示し表すのか、というのは桑折さんの得意とする手法だと思います。存在・不在は、抽象的なパフォーマンスでは特に観る側の想像力をかき立てられるし、時間や記憶に直結している面白いモチーフだと思います。福岡公演の『To day』を観ていて、共に時間を過ごしたのにいなくなってしまった人や動物という具体的な事柄が思い浮かんだり、魂や霊、光と闇、希望や絶望のような形にならないものが、舞台上をよぎった感覚を持ちました。いろんな要素が時空を超えて、集合してきた、みたいな。
今回の作品では、存在と不在をデザイン化するだけでは物足りず、不在によって『To day』をどう過ごすのか、不在の存在を信じることで、何が勇気づけられるのか、そういうところまで想像し観てもらえる作品になると良いなあと期待しています。
飯名:出演者4人のパフォーマンスの力はそれぞれにスゴいエネルギーがある。空間とか時間が、しっかり詰まっている感じ。濃さのある作品になってきた。でも、今度はもしかしたらもっと薄くしていく段階かもしれない。
水野:とても丁寧にムラがないようにつくってきますからね、ぴちっと。
飯名:丁寧に作り上げてる。単にビジュアル的にオシャレでしょ、みたいな作り方ではないわけですから。
水野:神戸公演を観た方に、20分くらいしかないですよねって言われたんです。それくらい濃密に感じてくれたということだと思います。
飯名:それは良いね。
水野:『ナレノハテ』と並べると全然違うから面白いよね。
飯名:時間の流れ方が違いますね。宇宙的な時間になってる。
水野:なるほど、わかります。衣裳を脱いだりその残像と戯れたり、何もない空間で歌ったり、いろんな要素が同時進行していくような、時間がない空間にいるような、常識的な時間の流れではない空間に感じますね。出入り自由なタイムカプセル、みたいな。舞台美術が、うまい具合にその抽象的な空間移動と連動しているように見えて面白いなあと。物理の理論はわからないけれど、時間と空間を自在に往き来することと、存在・不在が繋がっている日常だとすると楽しそうですね。舞台をみて、自分の日常の概念について遊んでみる、というのは、作品の醍醐味ですね。
飯名:単に演出家一人の指示だけで作った作品ではないような気がします。演出家の指示に出演者が「はい、その通りやります」みたいな、そういう関係ではない。だから「じゃあ、こことここは無しにしまーす」っていう演出家の直感的演出だけでは世界が変化できない。演出の醍醐味ってそこからでしょ?そこが面白いところ。
水野:そうですね。今回初めて集まったこの構成メンバーでの新作制作は、おそらく桑折さんにとっても、メンバーにとっても、このチームの制作方法を見つけるまで、産みの苦しみがあったと思います。作家・演出家で舞台には立たない桑折さんと、舞台で実際にパフォーマンスをする音楽家・演奏家と、振付・ダンスを担うメンバー。演出家のつくりあげたい世界に、それぞれのジャンルから、アイディアを出していく。その過程では、作品の方向性がもちろん全部決まっているわけではないから、演出家の判断も当然ブレることもあるわけで、大海原を航海する船は、進路良好の日も、羅針盤が狂う時もある。そういう時に、船に乗り合わせたメンバーはどうするのか。時には船長の舵を補佐し、行く先の天気図をみせたのかもしれない。それぞれのジャンルから最大限のアプローチをしたと思います。そこを乗り越えてきた強さがこのチームにはある。なので「踊2」のダンスの新作をつくる方法論に、ひとつの新技が加わったと思うので嬉しいです。ここまで来たから最後のブラッシュアップの演出は、桑折さんに委ねられているのかもしれないですね。
飯名:参加しているアーティストたちが一生懸命作ってますよね。やりとりを見ていると。それぞれの作家性も強い、それぞれに自分の表現というものに自信もあるし、プライドもある。それは当然だし、そうじゃないと困るわけです。でもどこかで裏に隠れることがあってもいい。裏に隠れたことで存在が引き立つ。なにしろ作品のテーマが壮大なわけですからね。この先に確かにある見えない何かを掴もう!というね。
水野:そういう意味では、Aプログラム3作品とも、どこかベースは似ていますね。
飯名:作品テーマというのは、当然のことながら作者の問題意識そのものなわけですよね。そこには同時代性がある。ないとリアリティーなんてないわけですから。他のBプログラムの話を聞いていても皆、ハッピー!イェーイ!みたいな作品はなかったですよね。どこか闇の部分を持っているし、それがフィクションとしての闇ではなくて、現実社会の闇の部分だったりする。でも、もしかしたら、そのことって現代的な大きな問題かもしれないですよ。芸術上の社会的問題かもしれない。ダンスという「生きる喜び」を体言してきた表現が、花が綺麗だとか鳥が美しいだとか、そういうことを表現するのではなく、死んでいく身体、とか、生きることの空虚さ、みたいなことにテーマが向かうってことがある。それはどこかで今の世界全体の社会状況にアーティストが影響され過ぎてしまっている可能性もある。現実社会を表現するのか、それとも現実社会を打破するのか。
水野:私の望みはやっぱり打破ですかねえ。同時代を生きているという共通項があり、作家と観客も同時代を生きている。社会にとって目に見える形の生産性ということで言えば、とてつもなく生産性の低い舞台作品に価値があるとすれば、それはやはり打破ではないかな。が、確かに躊躇なく打破と言ってしまわざる得ない社会になっていると思うのは、褒められたことではないですね。打破という強いことでなくとも、作品を通してみえてくる光や、ヒントや、なるほどという自分では想定できなかった価値基準というものが、舞台作品から観たいと思っています。
飯名:桑折さんのこの作品は、何かの「果て」「際(きわ)」に行こうとしてるような作品ですよね。僕らは、『To Day』の「To」の意味を考える必要があります。何かに誰かが向かってるわけですよね。世界の果てなのか、時間の果てなのか、宇宙の際なのか。その先の世界を僕たちはどうやって観ようか、その世界の果てとか際をどうしたら観られるのか、という欲求。それを観客も観たい、というか、観ようとしたい、向かおうとしたいんじゃないかと。
水野:そういうところって、作為的な技巧がどうだっていうところじゃないのかもしれないですね。パフォーマー自体の存在から滲み出てくるものというか。カチッとあるフレームから、はみ出してくる余分なものとか。
飯名:ボイスパフォーマンスの山崎さんが、ワーッと激しく歌って、そのあとにシーンと黙っている時の山崎さんの存在感ってスゴいんですよね。なんか怖い。松尾さんが踊ってるときの目つきとかも殺気があって、薄ら笑いのようにも見えて、本当に怖い。そういう存在感がこの作品の本質的なところでもあると思う。
水野:福岡公演あたりから、出演者全員、伸びやかで緊張感もあり毎回、あがってきていますね。客席の反応がよいとパフォーマーも活き活きしてくるのがわかります。神戸公演では、中川くんの演奏に、ドキッとする場面を目撃しました。
飯名:チェロの演奏、良かったですね。ミニマルでノイジーなんだけどナチュラルな奥行きがあった。これまではアーティスト全員が、各自の責任感で自分が作品のベースを作らなきゃ!っていう焦燥感を感じたこともあったけど、だんだんお互いに委ねてきたような関係も見えてきたかも。あの空間でみんなが呼吸し始めたというか。それが面白かったですね。
水野:それすごく実感しますね。本来この作品は、一度、骨組みが決まったらそこから自由度高く、往き来することで作品が自力で勝手気ままに走りだすのかな。桑折さんは、「僕がこの作品で、言いたいことは何だったのだろう」と自問自答を原点から始めた時期もあったし、作品を突き詰めていくことに、逃げずに向き合ったと思います。
飯名:対話しながらつくって来た感じが作品を見ていて分かるんですよね。誰か一人のデザインじゃない感じがする。そこがすごく良いなと思った。僕はね、桑折さんって本当はすごく泥臭い人間だと思うんですよ。本来、哲学とか文学って泥臭いものじゃないですか。
水野:人間の底を追求するものですからね。表面ではできない。
飯名:こういう泥臭いことって、生身の人間同士の対話なくして出来ない。メンバー同士の人間関係とか、作品に対する葛藤とか、具体的な言葉を使った仲間との対話とか。それが積み重なってきた作品ですね。
水野:揉まれて諦めちゃってもうダメだと思うのと、揉まれてやっぱり形にしなきゃと踏ん張る、というのは違うと思うから、そこは作家の分かれ道だね。
(その3に続く)
<東京公演情報>
渾身のAプログラム3作品。一挙上演。
2015.3.21(土) / 3.22(日)
会場: アサヒ・アートスクエア
チケット予約/詳細情報:https://odori2.jcdn.org/5/schedule/tokyo.html
<上演作品>
「#1天使ソナタ」 川口智子
「To day」 桑折 現
「ナレノハテ」 目黒大路