踊りに行くぜ!!

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2015年4月12日
「踊りに行くぜ!!」II 応募のススメー 桑折現に聞く。

現在vol.6の公募が行われている「踊りに行くぜ!!」II(セカンド)。
ダンス作品をクリエイションするプロセスのすべてをサポート、と謳われているこの企画ですが、どうやら、なんか怖そうだよね、という声も聞こえてくるよう。ホントのところ、ぶっちゃけどうなんですか? ということを、3月に5ヵ所の巡回公演を終えたばかりのvol.5・ Aプログラム参加アーティスト、桑折現に直撃インタビュー。プログラム・ディレクターの水野立子も加わった。
聞き手は、京都を拠点に活動している演出家・和田ながら(したため)。
参加アーティストは、日本のあちこちに踊りに行ったあと、果たしてどんな実感を持っているのでしょうか。

(テープ起こし:渋谷陽菜  聞き手・編集:和田ながら)


神戸公演photo:草本利枝

>>作家としての自分が試された、濃密な作品制作のプロセス

和田:桑折さんが「踊2」に応募したきっかけはどういったものだったのでしょうか。

桑折:もともと気になっていた企画ではありました。あと、参加すると、厳しい意見に取り囲まれることもあってハードな現場らしい…という噂も聞いていました(笑)。でも、ちょうど自分のタイミングとして、たとえキツくなったとしても、作品を作るということに対して新たに向き合える、考え直せるいい機会だなと思ったんです。主宰しているdotsというカンパニーではなく自分一人で作品を作り続けていくことができるのか、その作家としての自分を再確認する、試験するような場にできるのではないかと。

和田:そういった自分の課題に対して、終えてみての実感はいかがですか?

桑折:まずは参加して良かったですね。とにかく、作品制作のプロセスが濃密でした。プログラム・ディレクターの水野さんやJCDN佐東さんが突っ込んだ意見を投げかけてくる、ということもあったんですが、それと同時に、クリエイションメンバー内でも作品に対する意見や反発が起こることもあった。そのプロセス自体が、今も自分の身体の中に残っていて、財産になっているという感覚です。

水野:桑折チームのクリエイションは、すごく大変だったよね。終わった今ならあっさり言えてしまうけど、ドキュメンタリー番組作ったら、かなりおもしろかったんじゃないかな。(笑)

和田:確かに、桑折さんチームは、メンバーひとりひとりが個人として作家性を持っている顔ぶれだな、と思っていました。レジデンスや巡回公演といった長い期間を経る中で、衝突が起きないわけないだろうな…と。

桑折:もちろん、演出家としてはスムーズにクリエイションが進むように、うまくやろうとするんです、最初は。でも、そうはいかなかった。結果としてはそれが良かったんだと思うんですけどね。メンバーから反発するような意見がやってくるかもしれないという緊張感は、作品についての自分との戦いでもあったので。

>>巡回公演がもたらすもの

水野:dotsでやっている時と「踊2」でのクリエイションは何か違ったんですか? dotsは桑折さんのトップダウンのつくり方なんですか?

桑折:いや、トップダウンではないんですけど、カンパニーメンバー各自の責任の持ち方が少し違うんですね。摩擦が起きないわけではないんですが、それぞれが担う部分がありつつ、作品の責任は一緒に持とうとする。そもそも、なにをやろうかっていうところから一緒に考えているので、そこが大きな違いかもしれません。

水野:今回は、桑折さんがやりたいと提案したものに対して集まってきたから、dotsとはメンバーの集まり方自体が違ったってことですね。巡回公演の最初の方は、チームのバラバラ感に、どうなっちゃうのかなって、結構心配していた(笑)。桑折さんもその時期はげっそりでしたね。

桑折:札幌で初演したころは、メンバーが東京と京都で分かれていたこともあって、クリエイションの時間の問題はありましたね。

和田:自主企画などで作品を発表しようとすると、複数の場所で公演するというのはかなり大変なことですが、巡回公演を体験してみて、いかがでしたか?

桑折:1回公演をやっても終わらないっていうのは、すごく大きかった。一度上演まで辿りついた作品を、また壊して作り直していくことが出来るほどの公演回数があるというのは、僕らにとって非常にプラスでした。作ったものをいざ上演してみると、なにかまだ足りないんではないかと気付かされたりもして。

和田:それは、なにによって気付かされるのでしょう?

桑折:やはり上演することそのものによって、ですね。いくら稽古場で時間を重ねても、上演をすることを通じてでなければわからないことがあります。上演を経ることで、客席の空気感や微細な反応もわかりますし、作品と自分との間に、客観的に見ることができる距離が生まれました。その距離感は良い意味で、作品を抱えすぎずに手放していくような感覚でもありました。

水野:特に初演のころは各地の主催者も積極的に感想を伝えますね。チームごとのリハーサル時間の後、それからゲネプロ後、公演後の、計3回くらい。

桑折:また「踊2」では、自分たちの作品ひとつだけではなく、同じAプログラムの作品も同時に上演されます。他のチームの作品を見て感じたものを自分の作品と比べる中で、単独では見えなかったであろうものが見えてくるというのも、大きかった。Aプログラム同士は、そうやって最後の東京まで、文字通りお互い切磋琢磨していく感覚がありましたね。それから、開催地ごとに空間が違うのも、僕らにとっては良い刺激でした。スタッフも巡回公演に通しで付き合ってくれるので、その安心感もありました。

和田:水野さんからは、巡回公演の中で桑折チームがどう見えていましたか?

水野:近年の「踊2」の中で、桑折チームほど巡回を経て変化が出たチームもないかなと。札幌、仙台では雰囲気も暗かったよね。でも、福岡公演で作品が完成に近づいた時、お客さんの反応が良かったから、メンバーの表情も違ってきましたね。作品への関わり方も、演出家に何をやりたいか問うような最初の頃の姿勢から、個々が表現のレベルを上げていかなければならないという切実さを持つように変わっていったあたりから、ぐっとパフォーマンスの質があがったと思います。最終的にはチーム全員が納得できる作品になったなと思っているんです。巡回公演を最も活かしたチームだね。


東京公演 photo:前澤秀登

>>プロジェクトに関わる多様な人たちとの貴重な共犯関係

和田: JCDN、レジデンス先の施設、各地の主催者と各会場のスタッフ、巡回テクニカルスタッフと、自主企画公演とは比較にならないぐらい関わる立場や人数がとても多いプロジェクトだなと思います。自分やカンパニーだけが責任を負って済むということでもなくなる。その環境をどのように受け止めていらっしゃいましたか?

桑折:ひとつには、作品づくりに純粋に集中できた、ということがありました。JCDNや各地の主催者という、公演というフレームを担っている人が自分たちとは別にいることの心強さが大きかったですね。こんなに仲間がいるんだ、って。
そして、それがお金を出す側/もらう側といった単純な関係ではなくて、その人たちとも一緒に作品を作っている感覚を持てた。シビアな意見を言われることもあったけれど、その言葉をポジティブに捉えることが出来たのは、関わっている人たちがみんな、共犯になれるような関係だったからこそだと思います。

水野:作品に対してコメントをする時は、個人的な好き嫌いの感想ではなく、「踊2」の企画者として、作家である桑折さんがどうしたいのかということを同じ目線になって考えたいと思って発言しています。それって、本当に桑折さんが行きたい方向なのか、とか、まだ全然浅いんじゃないの、とか。作品をブラッシュアップすることが目的なんですよね。

桑折:水野さんからにしても佐東さんからにしても、「それって個人の感想だよね」と聞く体勢から、自分の作品に対してなぜそういう言葉が出てきたんだろうというところまで想像すると、聞く側としてのスイッチが切り替わって、作品に対するポジティブな変化を考えることができたんです。ちょっと外側にいる、でも確実に一緒に作品を作ってるメンバーだなって思えた。

水野:そう思ってもらえると嬉しいなあ。

桑折:でも作り手は、作品というかたちでしかその言葉や共犯関係に応答できないんですよね。そのもどかしさ、きつさは感じました。これだけ贅沢な作る環境を与えられたのだから、いい作品に仕上げていかなくてはいけないというプレッシャーは、ともすれば、色んなレベルで言い訳ができてしまう仲間同士だけのプロダクションとは全然違う。

水野:主催者側にとっても、どんなものが出てくるかわからない新作をまるまる1年かけてサポートする、そこまではよいのだけど、その作品を即、公演するということは、やはりリスクが高いことでもあるから。でもそのリスクに挑戦して、いろいろな立場の人が一丸になっている。

桑折:一歩間違えれば噂通りに「潰れて」いたのかもしれないけれど。自分がOKとする基準というもの自体を引き上げてもらうような、いち作り手として非常に貴重な環境でした。それは自分個人やカンパニー活動の範囲ではなかなかない経験で、クリエーションメンバー含めて、味方だけど同時に他者でもある様々な立場の人たちからの言葉の強さがあったからこそ、可能だったのだと思います。

和田:すごくうらやましい。自分だけでは行けなかったところに行けるかもしれないというのは、もちろん簡単なことではないですけど、魅力的なチャンスですよね。

>>自分なりのダンス、を携えて、飛び込む!

和田:「踊2」に参加する前/後で、桑折さん自身に変化は起きましたか?

桑折:正直、まだはっきりと言葉にはならないのですが、作品を作ることに対する意識や作り方は変わった、という自覚はあって。おそらく自分が次に作品を作る現場で、それが証明されるのだろうなと思います。
ある程度、作家としてのキャリアを積むと、自分なりの方法論のようなものを掴んでいくのと同時に、失っていってしまうものがあるんじゃないかと感じていて。それはがむしゃらな若さとか、初心といったものとは違う感触なんですけれど。でも、その消えてしまったものを、「踊2」のプロセスの中で新鮮に取り戻していけたように思います。

和田:「踊2」は現在vol.6の公募中ですが、応募をためらっているアーティストに、参加経験者からのメッセージはありますか?

桑折:とにかく応募してみることが大事なんじゃないでしょうか。「踊2」を経験することが、表現者としての力に必ずなる。作品を発表するチャンスだという以上に、このプロセスを体験できることが、とても貴重で有意義なことだと思います。もちろん、資金面も手厚いし、一日中作品に向き合うレジデンスも、かなり贅沢な機会です。城崎国際アートセンターは素晴らしい施設でした。自分自身で主催公演などをやったことがある、ある程度キャリアを持っている人には特にオススメしたいですね。

和田:書類審査後にある2次選考会でのプレゼンテーションは、いかがでしたか?

桑折:思いがけず、会場に入った途端に緊張しましたね。

水野:でも、その後のクリエイションに比べたら可愛いものでしょ?

桑折:これから作る作品についてのプレゼンって難しいんですよね。僕の場合は、どういう人たちと一緒にやりたいと思っているか、メンバーの紹介に特化しました。

水野:そうしたら、コンセプトは何なんだって突っ込まれてたね(笑)。選考する側としても、プレゼンの段階で全てがわかるとはもちろん思っていないですよ。見ているのは、その人が真剣に作品づくりを突き詰められるのか、っていうところ。各地の主催者も一緒に選考にあたりますが、その部分で意見が割れることはあまりないかな。もともと「踊2」は作品の制作方法を新しく見つけ出すことを期待しているので、答があるわけじゃないんです。

和田:むしろ、その答を一緒に探していくパートナーを見つけたい、ということでしょうか?

水野:そうですね。もちろん制作方法を探すのはアーティスト自身だから、ただ「はい、作品やって下さいね」っていうことではなく、こちらはそれをとことんやりきれる環境を作っていきたいと思っています。

和田:たとえば、たとえば、桑折さんのようなダンスの振付家ではなく、演出家からの応募も歓迎ですか?

水野:もちろんです。

桑折:自分なりのダンス、というものを定義できればいいんじゃないでしょうか。自分が踊れなくても、ダンサーと組むという方法もあります。一度参加すると、作り手としての体力が本当につくと思います。

水野:特に桑折さんに続く関西からの参加者を熱望したいですね。是非。

2015年4月6日 JCDN事務所(京都)にて

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