踊りに行くぜ!!

アーティストインタビュー

2015年2月18日
秋津さやかインタビュー前編 [B リージョナルダンス:神戸]

12月の半ばからBプログラムのクリエイションがダンスボックスで始まりました。1月のクリエイション最中の夜、新長田の情緒あふれる居酒屋で、ダンスボックスのプログラム・ディレクター横堀ふみ、国内ダンス留学@神戸三期生の制作者コース(現:神大生)藤澤智徳、カメラマン岩本順平の3名が、Bプログラムで作品制作に取り組んでいる秋津さやかさんにインタビューを行いました。プロのダンサーとして求められること、競争社会の中で磨かれるもの、ヨーロッパに拠点をうつし、試行錯誤されたことについて、秋津さんからお話を伺うことができました。これからプロのダンサー・振付家としての道を進む、若手の皆さんに読んでいただきたい記事です。前編と後編にわかれた、長めの記事ですがぜひ一度ご覧ください。

photo: junpei iwamoto

1月16日金曜日の夜
新長田の居酒屋「甘えん坊にて」

秋津さやか
滋賀県出身、アムステルダム(オランダ)在住。
現在、スペインへの移住を検討中の振付家、パフォーマー。

横堀ふみ
NPO法人DANCE BOX/プログラム・ディレクター
昨年、ベトナム人舞台監督と電撃婚。根が真面目なので、今回は真面目な話担当。

藤澤智徳
NPO法人DANCE BOXが主宰する、国内ダンス留学@神戸3期生制作者コース在籍の神戸大学3回生。1月のショーイング公演では大入りで公演を終え、現在、3月の成果上演に向けて準備中。

岩本順平
NPO法人DANCE BOX広報担当。フリーカメラマンとしても活動。
基本的に女性しか撮らない、撮りたくない。そんなタイプなので、今回はしょーもない話担当。


photo: junpei iwamoto

■第一部 -Blind piece について-

横堀: 今日は3人でいろいろお伺いしたいと思っています。よろしくお願いします。早速ですが、今回製作している「Blind piece」ってどんな作品ですか?ダンスの作品を言葉であらわすのって、難しいと思いますが。

秋津: ダンスについて書いた文章って、見た人が全然違うことを想像してるんじゃないかな?って思いますよね。

横堀: 結構、私もいつも苦戦しています。

秋津: プロダクションに企画を持ち込むときって、企画書を書かないといけない。ダンスはまだないのに、書いていると文章は出来てくる。私の苦戦するところはそういうところです。

横堀: 作品のこと、コンセプトのことを考えるのは日本語ですか?英語ですか?

秋津: コンセプトを考えるときは自分のやりたいことだから、何語ってことはないけれど、書かないといけないのは英語が多いかな。日本語って母国語だし、不自由がない分、なんとなくずっとしゃべっていられる。でもその分クリアじゃない事に自分で気がつきにくいと思うんです。それに比べて英語でプロポーザル(企画書)を書くときは母国語じゃないからシンプルにはっきり書こうとする。おかげで、前より論理立てて考えることができるようになったと思います。

オランダでは「その作品って何?」と聞かれた時、「この作品はこれです。」と答えることを求められます。 プロダクションやプロデューサーが、「振付家はこうしたいのかな?」と配慮してくれる場所ではないから、自分で伝えていくことが必要。優しさとかはないです。「何が言いたいんですか?」という問い→答えられない→はい終わり、というテンポ。仕事はそんなもんだと思う。いつ何を聞かれても、今はこういったプロジェクトをしている、こういったことを目的にテストをしている、と明確に答えることが大切で、はっきり言えることが大事だし、それはプロに求められること。最初はすごく大変だったから、よく泣きました。



横堀: 今回の作品「Blind piece」をオランダで紹介するときには、何と説明しますか?

秋津: このダンスは、私が作るパートと、目をつむった時に観客の中で生まれるパートでどんなダンスができるかの、実験です。目を瞑っているところがあるから、私が全部作るわけじゃない、それでも作品ができるのかどうか。そして、それってどんな作品なのか。

横堀: 観客が目を瞑るということを発想したきっかけ、始まりはいつですか?

秋津: 始まりは4年前、チョコレートをテーマにした作品「A bite」の中に、すごくたくさんの暗転がありました。その間にダンサーが舞台上を移動して、ダンスも舞台上の空間もランダムに展開するテンポのいい作品でした。最初はいかに暗転を短くして、映画のように早く展開することができるかを考えていて、稽古の時に、「移動をもっと早く!もっと早く!」と言って、ダンサー達が薄目にして暗転の中を走る練習をするという変なリハーサル。スタジオに何度かアドバイザーに来てもらった時には、暗転の代わりに目を閉じてもらっていました。その時に、そんなに暗転を短くする必要がないんじゃないか、って言われました。舞台でやった時、暗転がどのくらいの長さがいいのか、客席から感じながらやっていたら、暗転で見えない間、舞台で何も起きていなくても、お客さんは踊り以外のことをすごくたくさん吸収できるんだ、ということを発見して。踊り以外のことって何かな、って自答すると、逃げ道のような言葉を使えば日本的な「間」、言葉と言葉の間みたいな感じ。その間、私たちが何も発していないわけだから、舞台上ではなくお客さんの頭や身体の中でいろんな事が起きる。この要素にもっとフォーカスし、それ自体を作品の一部として、それをコンセプトに作ったらどうなるかな、って思ったのが始まりです。

横堀: この目を閉じるという作品の初演はアムステルダム?

秋津: いえ、今回が初めてです。目を瞑るというのはスタジオでしていただけで「A bite」の作品には取り入れていないから。

岩本: ダンサーとしてアムステルダムへ行って、振付家にシフトするきっかけはありましたか?

秋津: 単純にもっと踊りたくて、いろんな作品を経験したい、いろんな振付家がいるんだろうな、と思ってアムステルダムに行きました。でも、それをするためには、何百というオーディションを受けないといけない。すごくたくさん、得意な方ではないけど頑張りました。オーディションなんていくつも行って、何か見つかるかどうか名刺交換のようなもの。そう思ってはいるんだけど、やっぱり比べられることは辛いです。体力的にもしんどいし。
ある時、スウェーデンで憧れていた振付家のプロジェクトがあって、招待されました。オーディションは3日間で、集まったのは世界中から600人ぐらい。1日目を通過して、2日目も通過して、最終日の40人に残った。最後の日は8時間ぐらい踊りました。振付があって即興があって、何度も何度も振付家が踊ってくれと言うから、皆泣きそうだけど汗だくになって力を振り絞って踊る。結局最後の最後に落ちちゃって、帰りの飛行機で「もうこれ嫌!」ってなりました。

岩本: それは踊ることが嫌になったということ?

秋津: オーディションって本当はそういうものじゃないんですけど。なんだか、踊らせてください、踊らせてくださいと頼んでいるような気持ちになって、嫌になったんです。オーディションがね。大層じゃなくていいから自分がやりたいことをやってみたいと思って、友達と小さな振付をつくりはじめて、それが始まりです。

岩本: そこからは踊ることよりも振付をすることがメインに?

秋津: 私の場合は半々かな。誰かと一緒に仕事をすると学ぶから、自分の仕事にも反映される。自分の作品をずっとつくっていたら、人に身をゆだねて、何でもやるよって気持ちになる。二つの仕事のバランスをとって両方で成長したいと思います。あと、即興はいろんな形式で機会があれば常時やっています。これは身体と思考をどう発展させていくのか、自分のアーティストとしての探求。自分の作品は年に1回作って、あとはゆっくり振り返っている。そんなにがつがつ作れるタイプじゃないので。

岩本: オランダではダンスが活発なんですか?

秋津: 私が行って数ヶ月で、リーマンショックが起きました。文化予算が半減してカンパニーがかなり減って、オーディションの数も激減した。あれっ?てかんじで。なんか、思っていたのと違う、、、と。それでもアムステルダムには学校もあるし、アンダーグラウンド文化も充実しててアーティストは多いから、日本に比べれば活発な環境ですね。


横堀: 今回選んだ3人のダンサーはなぜ選んだのでしょうか?

秋津: そうですね、たくさん理由はあります。まず、作品の制作期間が短いという事が決まっていたから、テクニックや表現面の評価だけでなく、はっきり言葉でやりとりができる人を選ばなければいけないと思いました。リハーサル中にエクササイズや即興を行っていくとき、彼らが感じること、彼らしか感じないことがあります。私は踊っていないから、実際にパフォーマンスする彼ら自身が、踊っている時に生まれる感覚や感情をこの作品にいれていくことが必要です。その為には、それを振付家の私に伝えられなきゃいけない。日本は言葉を選ぶ文化だから、最初は彼らも慎重だったんです。けれど、いい作品にする為に、少なくてもいいから自分の意見を口にしてってお願いしました。やっていてこんな気持ちになるとか、つまらないなら、なんでこの動きやってんの?とか。

横堀: 蓋をあけてみてどうでしょうか?

秋津: 3人でよかったと思います。彼らの身体も話す様になってきたと思う。

横堀: 今はプロセスとしては、秋津さんがこんなことをやってみようか、という課題に対してそれぞれが出したものを、発展させたり、精査したりしている感じですか?

秋津: いろんな即興をしてアイデアをマテリアル化しています。その後、それを更に面白くする作業をします。1回できても、2回目できないことは、助けてあげないといけない。それができるのがダンサーだけれど、できないこともあるから色んな練習をしたり、即興でできないならフィックスしたり。自分が踊って彼らが何をやっていたのか見せる事もあります。それを見て、どのように動くかを教えるわけじゃないけど、それをすることで、私が何を見つけて、何を深めていこうとしているのかが目に見えてわかるなら、役立つかなって思って。

横堀: 秋津さんがこの振りで踊ってくれ、と渡す手法ではないのですか?

秋津: それは一つもありません。私は手や足をこうやって動かして、という振付を作って、すごいのができるほど自分のことをユニークだと思っていません。それよりも、あるダンサー達の関係性や、動きのクオリティーを設定して、その中でどのような動きや感情が出てくるかを見つけるのが好きです。このようにコミュニケーションをとりながら作ることが、自分に出来ることだと思います。

<前編おわり>

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