その3 平成22年12月14日 

とりっとダンスのはじまり(一場面)より。
舞台がいつ始まったのかわからない。ブランコで遊ぶ子供の声がする。砂場で遊んでいる子どもいるようだ。がやがやと楽しい声が聞こえている。
舞台の中央の椅子にすわった人のゆっくりとした動作から始まる。
空間に浮かんだ大切なものを掴み取るように、ゆっくりと両手を広げていく。
掴み取ったものを抱え込みながら、倒れこみ、また立ち上がり、今度は地面にあるものを掴み取っている。掴み取りながら、体はもがいている。
もがきながら、中央の椅子へ帰ってくる。そこで、再び、前よりも大きなものを掴み取るようにゆっくり動いている。
そして、つかんだものを吐き出すように、体から「言葉」「コトバ」「ことば」の言葉が発せられた。掴み取ったものは数々の無言の言葉であった。そして、椅子から立ち去っていく。

わたしの座った椅子に温もりは残っているか。言葉の滓は残っているか。

その4 平成23年1月6日

とりっとダンスの海辺の棺(一場面)より。

波の音が聞こえる。棺を持った男女がゆっくりと海辺を運んでいる。どこへ棺をもっていくつもりなのかわからない。誰の名前の棺であるかもわからない。
棺は遠い過去から、深い海からやってきたのかもしれない。
歩き終わると棺が解体され、それぞれの個別のブラウン運動をおこす。

箱をもった男女の動きが止まり、ひとつの塔ができる。それはひとつの墓の象徴でもあり、海辺をさまよった言葉のあつまりでもある。過去の思い出や人間が海辺から進化した歴史の証かもしれない。その塔もいつか崩れていく。海辺の砂の城のように。

いつの間にか数人の男女が箱を下に置き、しゃべりだす。
思い思いに、ランダムに。箱にことばをつめていく。いや、箱に日常生活の不満を吐いているのだ。思いの丈を吐き尽くすのだ。呼吸が苦しくなって、顔を上げる人も居る。我慢強く、ことばに耐えている人も居る。
誰に聞かせるのでもなく、自分だけが何をいっているのかもわからないぐらいにしゃべる。ただ、しゃべる。箱にことばをつめていくのだ。

今度は、しゃべり終わると静かに立ち上がり、リズムを取り始める。箱につまったことばのエネルギーを利用して、激しく動き出したのだ。動きは箱の上に乗った動きだけでなく、ことばの海辺となった会場を走り出す。そして、時には、過去を思い出すようにゆっくりとした動きになる。懐かしい昔をおもいだすようにスローモーションだ。ダンスは早くなったり、遅くなったりしながら
続いていく。